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ピッチ、という言葉を耳にすることがおありかと思います。
「ピッチが低い」「ピッチが合っていない」といった言い方をすることもあるでしょう。
そもそもピッチとは何でしょうか。
音の高さのことかな、というように漠然と分かってはいるが、音程とは何が違うのでしょうか。
またカラオケで実際に歌っていて、音が合っているはずなのに音程バーから外れている、という経験をお持ちの方もいらっしゃると思います。
今回は音程とピッチの違い、ピッチが低いとはどういうことか、音程がずれたりピッチが安定しない時の対応、などについてお話ししていきたいと思います。
ピッチって何?
音程とピッチの違い
音程(英語:interval)は2音間の音の隔たりをいいます。
対して、ピッチ(英語:pitch)とは音の高さのことをいいます。
ピッチは物理的には音の振動数の相違を意味し、振動数が多ければ高い音、少なければ低い音、となります。
また、オーケストラで音の高さをそろえるために最初に出される音はA音(ラの音=440Hz)です。
このA音の440Hzは標準調子、標準音ともいわれ、音楽で用いる音の高さを合致させるために選定された特定振動数です。
音楽においては地理的、歴史的に色々な標準調子が使われてきましたが、A音=440Hzは1834年のドイツ・シュトゥットガルト会議で決められ、アメリカでは演奏会用調子(コンサート・ピッチ)として採用されていました。
そして1939年ロンドンの国際会議で標準調子はA音=440Hzと決定され、こんにち広く用いられています。
ピッチが低いとは?
ピッチが低い、とは、出すべき音の高さに達していない状態です。
では、音程が低い、音程が違う、という時と何が異なるのでしょうか。
音程は2音間の音の高さの隔たりです。
つまり、2音間そしてその連続で成り立つメロディーには決まった音の幅があります。
音程が合っていない、ということは、厳密にいえば、本来の音と違う音で歌ってしまっている、ということになります。
楽譜に書ける音は通常半音までなので、音程が合わない=半音以上違っている、ということです。
しかし、音程の最小単位ともいえる半音の間にも、実は振動数の幅が存在します。
ピッチが合わない、とは、音の高さが半音の間に収まっていても、音の違いとして認識できるほど出すべき音の振動数から離れた状態、といえます。
出すべき音の振動数が同じであればピッチは合っている、ということになります。
しかし、人の声はもちろんゆらぎがあるので、ずっと同じ振動数でピッタリ音が出続けることはあり得ません。
歌の場合には、波形の中心が隣り合った高低の半音いずれにも偏らないようにすることが理想だといえます。
カラオケでなぜか音程、ピッチが合わない
音痴はなぜ気づかない?
音痴、といっても様々な段階が考えられます。
音の高さが頭の中でイメージできていない、ということであれば、個人差などもありますが、曲をよく聴き込むなどすればある程度解消されることが多いです。
問題は、頭の中で記憶している音と声に出したときの音が違う場合です。
これには、人が自分の声を出したときに自分の耳にどう聞こえているか、という構造上の問題があります。
人は自分が出した声を聞く時、口から出た音が空中を伝わり両耳に入る「気導音」と、声帯の振動が頭蓋骨など骨を伝わって直接的に伝わる「骨導音」の両方を聴いているのです。
自分以外の人は「気導音」だけを聴いていることになり、「気導音」と「骨導音」の両方を聴いている自分とは聞こえ方にギャップがあります。
自分の声を客観的に聞くことが難しいのは、こうした構造上の面からも起因しているのです。
音の違いを認識するためにはまず原曲をよく聴く必要があります。
そして、音が合っていない所を確認していきます。
確認するための方法には次のようなものがあります。
・自分が歌ったものを録音して聴く。
・カラオケの採点バーで合っていない音程を目で確認する。
・チューナーや音程モニターなどで音が合っているかを確認する。
数値や視覚的に違いを認識することは客観的に自分の声を知るためには有効ですが、歌う時には、オケつまりバックに鳴っている音楽全体と声が融け合っている感覚を持つことも必要です。
例えば、ロングトーンで同じ音で伸ばしているときでも、途中でハーモニーが変われば、出している周波数としては同じであったとしても、感じ方や音をとらえる感覚は変わってくるものです。
たとえ和声論やコード理論が分からなくても、全体の音楽と自分の声がしっくりとハマる感覚が持てるようになると、音程もピッチも格段に良くなります。
時に不協和音があるかもしれませんが、それが正しい場合ももちろんあります。
この後は音程やピッチが合わない時の対応について少し細かく見ていきますが、行き詰ってしまうことがあったら、音楽全体の中で音をとらえることも思い出してください。
音程が半音ずれる
音程が半音以上外れる原因には次のようなことが考えられます。
・曲の聴き込みなどが足りなくて、正確な音程が入っていない。
まずは曲をよく聴いて覚えましょう。
歌っていて、どうしても不安なところや音程が取りづらいところがあったら、ガイドボーカル機能を活用するなどして、不安なところを無くしていきましょう。
・どこで間違えているのかが特定できていない。
間違えているところが分かるように記録していきましょう。
歌詞カードをコピーして、印をつけていくといいでしょう。
少し大きめにコピーするのがおすすめです。
例えば、音を間違えた言葉、文字に〇(マル)を付けます。
さらに音が上ずっているのか、下がるのか、それらを注意するための記号、マークを書きます。
上ずるところは↓を書いて上ずらないように注意を促しましょう。
下がってしまう所は↑を書いて下がらないように注意を促しましょう。
言葉で書くと変な気がしますが、これは楽譜に注意を書く時のやり方と同じです。
曲がテンポで流れているときに、とっさに楽譜の注意を見た時に、自分の間違いと逆の方向の注意を書くことで気をつける意識が働きます。
もちろん注意事項の書き方に決まりはありませんので、合わなければ、やりやすい表記の仕方でやっていただいて構いません。
ピッチが安定しない
ピッチが安定しない、とは半音の範囲内だが、高くあるいは低い方へ音の高さがズレてしまっている状態、ということです。
では、その音の高さの微妙なズレをどう直したらよいでしょうか。
まず先に述べたように、どこで間違えたかを特定し、歌詞カードなどに記録します。
音程が取れていれば、全部が間違っているということはあまりないと思います。
間違っているところが、上ずる傾向なのか、下がる傾向なのかを押さえていきましょう。
上ずる場合は、自分の声を低く感じている可能性があります。
また、息が浅く、頭声だけで歌ってしまっていることも考えられます。
この場合は、声が浮いてしまわないように胸声、体(ボディ)が鳴る比重を増やしましょう。
下がる場合は、地声で歌っている、余計な力が入っている、ということが考えられます。
鼻腔共鳴を増やすようにしていきます。
リップロールやハミングで練習するのも有効です。
余計な力を取るためには、体を動かしながら歌ってみましょう。
歩きながら歌う、肩・腕を大きく回しながら歌う、上半身を大きくねじりながら(下半身や足はふらつかないようしっかりと立って)歌う、首を左右に動かしながら歌う(首を倒すのではなく、左右を向く、という意味)、といったことをやります。
動きながら歌うときはマイクを持つのもやめましょう。
マイクを持って同じ姿勢でいること自体が、体が固まって力みにつながっていることがあります。
力みが取れたり、声が出やすくなったり響くようになったら、再びマイクを持って歌ってみましょう。
しかしながら、こうした練習を活かし、精度を高めるためには、腹式呼吸にもとづくブレスコントロールや息の支えが必要ですので、折に触れてブレストレーニングもしていきましょう。
腹式呼吸や鼻腔共鳴については、関連記事の「カラオケのビブラートとは・なぜでない?~」「カラオケで声量が足りない、声が通らないのはなぜ?~」で詳しく書いていますので、こちらもご覧ください。
出だしが合わない
出だしが合わない場合、いくつかの原因が考えられます。
・歌い出しの音が分かっていない
歌い出しの音だけでもピアノ(鍵盤)を使って特定しておくようにしましょう。
ピアノアプリもありますので、スマホに入れておくと便利です。
慣れるまで、歌い出す前にその音を鳴らして音を取っておくようにします。
もしできなければガイドボーカル機能を使ってみましょう。
ガイドボーカルはオリジナルの歌手よりもクセが少なく、音程が比較的分かりやすいと思います。
・リズムが取れていない
入る時のリズムがズレていたり、曲のテンポ(速さ)に乗れていない場合は、リズム練習をしてみましょう。
リズム読みといって、曲のテンポ(速さ)と拍に合わせて手を叩きながら音程をつけずに言葉(歌詞)だけ読んでみます。
音程をつけない分、リズムや言葉の入れ方が合っているかどうかを意識しやすくなります。
それでもなかなか合わない時は、テンポを落としてゆっくりと同じようにリズム読みをしましょう。
ゆっくりやる時でもテンポは一定にします。
ゆっくりやってできるようになったら、だんだん速くして原曲のテンポでできるようにします。
ゆっくりやって確実にできるようになったら原曲のテンポまで持っていくのはそれほど時間はかかりませんが、できないのに原曲のテンポで練習し続けてもなかなかできるようにはなりません。
それどころか間違ったリズムで覚えてしまうと直すのに時間がかかり、下手をすると間違ったクセが直らずにずっと曲が仕上がらないまま終わってしまうことすらあります。
できない時こそじっくりと焦らずに取り組むようにしましょう。
歌い出す前に、余裕を持って息を吸う習慣を身につけましょう。
とくに一番初めや間奏後であれば、2拍前からゆっくりと深く吸ってみます。
速いテンポの曲なら1小節前でもよいくらいです。
フレーズを歌いきることも意識しましょう。
息を1フレーズで使い切ることで新しい空気は自然に肺に入ります。
こうした呼吸の感覚も身につけていくと、歌い出しがそろうだけでなく、音楽全体が良くなっていきます。
ピッチ変更とピッチ補正
ピッチ変更とは
ピッチとは音の高さ、であることはお話ししました。
音の高さ、振動数というのは基本的に決まっています。
楽器演奏では、A4音=440Hzを442Hzなどにすることはありますが、カラオケではこのような微調整は行いません。
カラオケのピッチ変更とは、キー変更のことだと考えていただいて大丈夫です。
なぜこのように使われるかというと、ピッチとキーの意味を混同して考えているために起こっていると考えられます。
ピッチの本来の意味:音の高さ
キーの本来の意味:鍵 / 調(=主音とそれ以外の音との関係性)
それぞれの本来の意味を理解し、混乱しないように気をつけましょう。
ピッチ補正とは
ピッチ補正とは、音響機器やDAW(パソコンの音楽制作ソフト)を使って、歌の音の高さを正しく修正する技術のことです。
カラオケでは行われません。
私たちが家で聴く音楽は、ジャンルを問わずCDや配信されたものでも、私たちの手に届くまでには何かしらピッチ補正がされていることが多いです。
シンセサイザーなどの電子楽器、電子音は音のゆらぎがありません。
一方、人間が歌う生歌はゆらぎがあり、多少なりともピッチのズレが生じます。
ゆらぎのない電子音と、人間の声をすり合わせる作業がピッチ補正の目的、といえます。
ピッチが悪い歌手
音が外れているわけではないが、あまり上手く聴こえない歌手の場合、ピッチが合っていない可能性があります。
しかしピッチが高め、低めというのは、歌手の個性につながる場合もあり、どの位許容されるか、程度の問題、になってくる部分もあります。
ピッチが高めの声は明るさや陽気さが増しますし、ピッチが低めだと暗さや陰影、憂いなどを帯びる、といったこともあります。
もちろん、歌手の個性はピッチだけでは語れないことは付け加えておきます。
ピアノの調律でも、低音は若干低めに、高音はより音の輝きが増すように高めにピッチを調整するものです。
ある歌手やグループなどの演奏で、CDでは聴けるレベルなのに、生で聴いたらガッカリ、という話しを聞くことがありますが、否定はしません。
確かに、ライブ(生)で、しかもマイクを通さないオペラやミュージカルなどの歌い手であれば音程の悪さやピッチが合わないことは致命的です。
しかし、普段聴く多くのジャンルの音楽は、演奏以外の様々な要素から成り立つものです。
シンガーソングライターであれば、その人が書いた楽曲だからこそ意味があり、売れる、ということもあります。
アイドルであれば、曲ごとに違う振付を覚え、動きながら、ダンスしながら、体力的にきつくても笑顔で歌い続けるのは大変なことです。
あの歌手あるいはグループは上手くない、と言うのは簡単ですが、自分が同じ立場だったら、同じパフォーマンスが、さらにいえばもっと上手く歌えるでしょうか。
その人の声は世界にひとつ、かけがえのないものです。
それはあなたの声にもいえることです。
歌手の数だけ、グループの数だけ個性があり、すべての人にではないにしても受け入れられるべき存在であり、すべての人がその可能性を持っている、ということは心に留めておきましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
ピッチとは音の高さであり、音程のさらに狭い範囲の音の高さを意識することは、大変なことのように感じます。
音程はもちろんですが、ピッチのレベルまで意識するようになると、歌の安定感や精度は格段に良くなります。
また、自分の声を客観的に把握することは大事ですが、同時に音楽全体の中で自分の声がどうハマるのかつかめるようになると、演奏の精度が高まるだけでなく、より音楽が、歌うことが気持ちよくなると思います。
ネットでの質問などに答えていくうちに、カラオケと直接関係のない内容に触れてしまうこともありますが、読み物として、そして音楽をより深く知り、楽しむための機会ととらえていただければ幸いです。
ありがとうございました。