Elixir(エリクサー)、「賢者の石」とも言われる架空の万能薬で、某超有名RPGゲームでも完全回復させてくれるアイテムです。
ギタリストにとっては、錆びない高級なコーティング弦が思い浮かぶでしょう。
1995年にアメリカで創業された弦の専門メーカーで、エレクトリック・ギター/ベース、アコースティック・ギター、これら以外にもマンドリンやバンジョーなど様々な弦楽器の弦を製作・販売しています。
Gore-Texという防水透湿性素材をご存知でしょうか。
W. L. Gore & Associates, Inc. が開発したポリマー素材、ePTFE(延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン)を基材としたものをコーティング材に使用しています。
この素材は化学的安定性に優れ、生体適合性、強靱性、耐熱性、低摩擦係数、耐候性などにも優れた特性を持っています。
この素材を使って、コーティング弦の草分け的存在となったElixirについて書いていきます。
Elixirの弦はバラ売りされてる?
Elixirについて
Elixir独自の技術で、弦全体をコーティングしている弦は、巻弦の表面だけではなく、巻線の隙間にもゴミなどが付着しにくくなっています。
弦全体を薄い皮膜でコーティングすることにより、ギター・サウンドの劣化と弦自体の錆の原因になる脂や水分などの付着するのを防いでいます。
弦自体ははコーティング素材に保護されているため、当然巻線の摩耗や変形も起こりにくく、金属の酸化も防いでくれる仕組みになっています。
その結果、弦の汚れによる弦の音色の劣化を最小限に抑えることが可能になっています。
セット販売だけでなく、バラでも販売されているため、通常のライト・ゲージにパックされた1~3弦をミディアム・ゲージにして使用したり、またその逆のパターンも試してみることが可能です。
Elixirの弦は、他の弦と比べると多少割高ではありますが、普通の弦と比べると寿命が非常に長く、毎日弾いたとしても3か月ぐらいはほぼ劣化しませんので、耐久性を考えればコスト・パフォーマンス的に悪くないと思います。
コーティング弦の最大のメリットは、面倒な弦交換の手間が少なくなることでしょう。錆びにくく、脂や汗に強いことから多くのプロギタリストからも支持されています。
また、ギター・メーカーの出荷時の弦としても採用されており、Ibanez、Tom Anderson、Carvin、ESPなどがその代表例です。初めからElixirの弦が張られているのは、少し得した気分になるかもしれません。
エリクサーの弦の寿命は、通常の弦の3倍から5倍の長さがあります。
ギターを何本も所有している方であれば、あまり弾かないギターにはエリクサー弦を張っておくことで、新品時の弦の状態で長く置いておくことが出来ます。通常、ギターを長期で保存する時は、弦を張っておくのが良いとされているからです。
また、巻弦はコーティングされていますが、プレーン弦は「Anti-Rustプレーン弦」が採用されています。
Anti-Rustは「サビ防止」という意味で、独自の耐腐食加工を施したプレーン弦に仕上げられていますので、コーティングされた巻き弦と同等の寿命を得ることに成功しています。
巻弦はコーティングされているため、初めてこの弦を弾く方は若干の違和感を感じるかもしれませんが(それでもすぐ慣れます)、プレーン弦はコーティングされていませんので、音質や弾き心地は通常のプレーン弦と殆ど変わりません。
バラ弦
ギターの弦が切れる要因は、ブリッジの所に実は何トンともいう大きい負担がかかっています。そのため、ブリッジで切れることが多いです。
もしくは、ナットの溝が摩耗などで、何らかの問題があるとすれば、そこでも切れてしまいます。
フロイド・ローズなどのロック式の弦の場合には、弦を切って弦を押し潰すことによってロックしているので、その部分が弱くなっています。
Elixir弦の場合も同様で、長時間張りっぱなしでメインテナンスもせずに放置しておくと、これらのいずれかの場所で切れます。
弦が切れた場合、同時に張っていると思いますので、当然6本全部交換しないといけませんが、Elixirの場合には弦の値段が高いので、バラ弦を買って切れた弦のみを張り替えることをおすすめします。
Elixirの弦も、楽器屋で普通にバラ弦が売り出されています。
以外、例を挙げていきます。
・Plain Steel Single String
- 0.009
- 0.010
- 0.011
- 0.012
- 0.013
- 0.014
- 0.015
- 0.016
- 0.017
- 0.018
- 0.022
・Plain Steel String Anti Rust
- 0.009
- 0.010
- 0.011
- 0.012
- 0.013
- 0.026
- 0.028
- 0.032
- 0.042
- 0.046
- 0.049
- 0.068
・Nanoweb Coating String
- 0.024
- 0.026
- 0.028
- 0.032
- 0.036
- 0.038
- 0.042
- 0.046
- 0.049
- 0.052
- 0.056
・Polyweb Coating String
- 0.024
- 0.026
- 0.032
- 0.036
- 0.042
- 0.046
などが揃っているようです。
Elixirの弦は、1弦が切れやすいという噂もありますが、定かではありません。
一般的に切れやすいと言われているのは、実は3弦だったりもします。
どちらにせよ、予備に多めに買って用意しておくのが良いでしょう。
また、7弦、8弦ギターを使っている方は、ゲージの太いものを張るのが効率的です。
当然なのですが、バラ売りの場合はセットで購入するよりも価格が高くなるので注意してください。
Elixirの弦の種類(Polyweb、Nanoweb、Optiweb)について
Elixirの弦には、Polyweb、Nanoweb、Optiwebの3種類がラインナップされています。
どの種類も巻弦はコーティングされており、プレーン弦は「Anti-Rust」が採用されている、いわゆる錆び止め加工が施されています。
この技術により、コーティングされている巻弦と同じくらいの耐久性がある上、弦に触れたニュアンスやサウンド自体は、通常のプレーン現にとほぼ変わりません。
冒頭で少し紹介した、Gore-Texというアウトドア・ウェア用の素材があり、Elixirの弦は、このGore-Texと同じくGore社によって開発された技術を基にしています。
そもそも、弦の開発を目指していたわけではなく、細い金属線の摩擦を減らすという研究で使われていた素材を、ギターの弦に使ったのが始まりのようです。
具体的には、特殊なポリマー・コーティングで、弦を使用の脂や汗、空気中の埃や水分から守り、錆びにくくすることで超寿命にすることを実現しています。
特に巻弦は、芯線を巻いている線の隙間に汚れが入って取れにくいため、コーティングすることによりそれらを防いでいるのです。
・Polyweb
最も初期のモデルはPolywebで、1997年にNamm Show(楽器発表イベント)で発表されました。
弦を厚さ約1μ(ミクロン、1/1,000mm)でコーティングした、非常に高度な技術による画期的な錆び対策の弦として発売されると、瞬く間に多くのユーザーを開拓していきました。
現在では、Elixir以外のメーカーからも様々なコーティング弦が発売されていますが、これらのコーティング技法、素材、厚さ、サウンド、指の感触なども本当に様々です。
Elixirと同様もしくはそれ以上の技術力で、質の高いものを発売しているメーカーはありません。
フッ素樹脂の専門メーカーとして開発してきた技術が、完璧に活かされていると言えます。
このような高い評価を得たPolywebですが、弦の寿命に関しての評判は良かったのですが、音のブライト感が失われており、ウォームになってしまう点が指摘されました。
この批評が、コーティング弦のデメリット(音抜けが悪い、音の立ち上がりが鈍い)として挙げられることになります。
コーティング弦は音がこもる、というイメージは、この時のPolywebによるところが大きいです。
・Nanoweb
Polywebのこのような評価を受けて、Gore社はより改良を重ねていき、新開発技術によりコーティングを約30%薄くして(nm(ナノ・メートル)の域にまで達しました)、弦の凸凹にピッタリと沿わせたNanowebを発売しました。
Nanowebの最大のセールス・ポイントは、非コーティング弦にかなり近い、自然なタッチのサウンドを実現したことでしょう。
その分、弦の耐久性やフィンガリング・ノイズへの耐性は、その分だけ損なわれてしまいました。
また、Elixirの弦でコーティングが施されているのは巻弦のみで、プレーン弦は非コーティングのままです。
ですので、巻弦とプレーン弦で耐久性の差ができてしまい、プレーン弦が劣化しやすく、張り替えのタイミングもズレてしまうという事態が発生します。
これを防ぐために、プレーン弦には「Anti-Rust」という腐食防止の加工技術が施されており、巻弦と同様に錆びや汚れを防ぐ役割を果たしています。
コーティングはされていないため、感触が異なるというようなこともなく、これといったデメリットがないのが利点です。
・Optiweb
そして、2017年3月に、Nanowebをさらに進化させたOptiwebを発売しました。
これまで培ってきた技術力を駆使して、コーティングの薄さを「1μ未満」という驚異の薄さを実現しました。
人間の指は非常に繊細な感覚を持っていますが、ここまでの薄さであれば、まず違和感を感じる人はいないでしょう。
もちろん、プレーン弦はAnti-Rustが施されています。サウンドがこもってしまうという初期のデメリットも解消され、ピッキングのニュアンスがよりストレートに弦振動に伝わるようになっています。
音色の特徴など
以上紹介してきた3つのタイプについて、サウンドの特徴や指が弦に触れた時の感触をまとめてみました。
音質 | 感触 | |
Polyweb | ウォーム | 非常にスムーズ |
Nanoweb | ブライト | スムーズ |
Optiweb | クリスピー | ナチュラル |
Elixir公式サイトでは、Optiwebについて次のように記載されています。
「伝統的なエレキギター弦が持つ、クリスピーな音色と自然な感触を提供しながら、エリクサー弦に求められる長寿命も実現する、革新的なコーティングテクノロジー」
クリスピーとは、日本語訳すると「パリパリしたような」という意味ですので、ギター・サウンドでは乾いたトレブリーな音、くらいのイメージでしょうか。
Nanowebでも非常に評判が良く、プロのギタリストにも愛用者がたくさんいましたので、それにもかかわらず、更なる質の向上を実現したのです。
フィンガリングはもちろん、ストロークや単音のピッキングともに、他のコーティングされていない一般的な弦と比べても、ほとんど違和感はありません。
わずかに硬さを感じる場合がありますが、演奏性、音色ともに気にならないレベルです。
さらっとしたような感触で、個人的にはベンディングに少し力が入ってしまいがちですが、スライドやグリッサンドなどは、むしろやりやすく感じます。
特に錆びなどによる音質の劣化が少ないことは、繊細さが求められるスタジオ・ワークにおいては、最も重視される点でしょう。
ギターの弦としては最高位の品質を持っているElixir。実際に使用してみると、その完成度の高さを実感できるはずです。
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