音楽の雑誌、特にベースの専門誌やベーシストのインタヴュー記事などを読んでいると、ベースの音を例える言葉で「ブリブリ」「ゴリゴリ」「バキバキ」といったような表現が使われていることがあります。
音を言葉で表現するのはとても難しく、相手に伝わりづらいものです。
犬の鳴き声を、日本では「ワンワン」と言うのに対し、アメリカでは「バウワウ」と言ったように。
このように個人差はあると思いますが、僕が感じる「ブリブリ」「ゴリゴリ」「バキバキ」というベース・サウンドについて説明していきます。
ベースの音作りの基本。ブリブリ・ゴリゴリ・バキバキの違いについて。
◯ブリブリの音
ブリブリの音は、ベース・アンプのセッティングで言うと、まずBassとMiddleを高めに設定し、Trebleを低めにします。Gainを上げていき、ベース音の芯がなくなる程度まで歪ませた音です。
ベーシストのサウンドメイク用エフェクトとして有名な、Sans Ampとは対極にあるような音のイメージで、ブーミーでウォームさもあると思います。
具体的にこのサウンドでイメージされるベーシストを、以下に列挙します。
日本のベーシストでは、
- 東京事変/亀田誠治
- ゆらゆら帝国/亀川千代
海外のベーシストでは、
- Black Sabbath/Geezer Butler
- Kula Shaker/Alonza Bevan
この辺りのベーシストの音を聴いてもらえると、イメージが湧くかと思います。
ゴリゴリの音
ゴリゴリの音は、この3つの中で一番分かりにくいのかもしれません。
この音は、個人的に2種類あると感じています。
一つは、プレシジョン・ベースをブリッジ側で強めにピッキングする、アタックとエッジを効かせた音で、まさに「ゴリゴリ弾く」音です。
中域が強調され、また弦をピックで弾くことで音の輪郭もはっきりしています。
Ramonesに代表されるパンク系やメロコア系の直線的なバンド、強いアタックとスピードが要求されるバンドのベーシストに多いタイプです。
もう一つは、若干「バキバキの音」に近いのですが、低域と高域を強調して中域を弱めた、所謂「ドンシャリ」の音です。
ピッキングの際に、少し「ベショ」っとした音が含まれてきます。
具体的なベーシストで言えば、Thee Michelle Gun Elephantのウエノコウジさん、ストレイテナーの日向秀和さん、海外で言えば亡くなってしまいましたがMotorheadのLemmy Kilmisterなどが該当すると思います。
個人的には、このベース・サウンドにとてもダーティーでロックな、かっこいいイメージがあります。ドラムのキックとは異なる低音で、バンドを支えている感じです。
バキバキの音
バキバキの音は、スラップ奏法を多用するベーシストの音色というイメージです。
但し、スラップ奏法で「バキバキ」という音に聴こえるのは、サムピングやプルなどにより強調された際で、スラップを使わない場面で弾いている時は、バキバキした音ではない事があります。
つまり、楽曲中で、奏法によってベースの音色を変化させて、使い分けているのです。
バキバキした音では、高音域が強調されて聴こえますが、セッティングはドンシャリっぽかったりします。
また、「ゴリゴリ」と「バキバキ」はかなり近いサウンドのイメージで、自分では「ゴリゴリ」だと思った音でも、「バキバキ」の音だと表現する人も多いです。
例を挙げると、Thee Michelle Gun ElephantのウエノコウジさんやMotorheadのLemmyの音を「バキバキ」と表現する人もいます。
ドンシャリ系の音作りをした場合に、低域よりも高域の方がより強調されたように聴こえるのであれば「バキバキ」、低域が強め、もしくは低域と高域の強さがフラットであればドンシャリ、と自分の中では定義しています。
音を言葉で表現するのは非常に難しいです。説明するより音を聴かせた方が早いです。ニュアンスで伝えるしかないので、自分では「バキバキ」と聴こえたら、「バキバキ」で良いと思います。
バンドの音を意識して音作りを
「ゴリゴリ」なベース音にセッティングをしてバンド内で演奏すると、自分が事前に想定していた「ゴリゴリ」な音に聴こえない場合があります。
この理由は、ドラムやギターの音が、ベースの音で「ポイント」になっている帯域と被ってしまい、自分が狙った音とは異なっているからです。
自宅や個人で音作りをしている時と、他の楽器と演奏する時では音の聴こえ方が変わってくることに注意してください。また、演奏している空間、音の反射などによっても違って聴こえます。
自分のバンドでは、どんなベース音が必要なのか、求められているサウンドを考えて音作りを始めましょう。
ベースのアクティブとパッシブの切り替えについて
ベースのピックアップは、アクティヴ・ピックアップとパッシヴ・ピックアップの2種類があります。
ギターもこのアクティヴ、パッシヴの2種類がありますが、ギターの場合はパッシヴが主流で、アクティヴ・ピックアップのタイプはあまり楽器屋さんでも見かけません。
対して、ベースの場合ハイエンドな機種は、ほとんどがアクティヴ・ピックアップがマウントされています。
アクティヴ・ピックアップの特徴は、ロー・ノイズで音質劣化も大変少なく、またギター側でコントロール可能なEQが付いており、高品質で使い勝手が良いです。
また、低中域も濁らずクリアに出力されます。安価なベースとの違いはこの点が大きいと思います。
アクティヴ・ピックアップの問題点は、電池で電源を供給するので入れ替えを行わなければなりません。また、電池の消耗によって音質にも変化が出てしまいます。
一方、パッシヴ・ピックアップは、電池が不要で、ボディのジャックからケーブルをアンプに接続してオンにするだけで音が出力されます。但し、エフェクターを多く繋ぐほどノイズが乗ってしまい、音質の劣化も起きやすいです。
また、低中域があまり美しく響かず、やや濁ってしまいます。どこまで許容できるかは自分で実際に聴いてみて判断しましょう。
アクティヴとパッシヴ、どちらも一長一短ありますが、これからベースの購入を考えていて、どの機種にしようか迷っている方は、「アクティヴとパッシヴのピックアップ切り替えが可能な機種」をおすすめします。サウンドの幅を多く持っているのはとてもメリットだと思います。
アクティブとパッシブの切り替えが出来るものにしよう
自分のベース音色はこれだから変えない、もしくは自分はアクティヴ(またはパッシヴ)以外に使わない!と決めている人はある意味楽です。悩む必要がありません。
悪い意味てはなく、それも一つの選択肢です。
しかし、そうではない方、楽曲や演奏スタイルによって音色をいくつか持っておきたい方は先述の通り、「アクティヴ・タイプとパッシヴ・タイプとピックアップが切り替えられる」機種を選ぶのが良いと思います。
以下でその理由を書いていきます。
電池関係のトラブルを防ぐ
アクティヴ・ピックアップの電池残量は、スマホのバッテリーのように視覚的に確認が出来ず、演奏中に充電もできません。
そのため、先に挙げた電池減量による音質の劣化や、電池切れで音が出なくなる、といったトラブルの危険性を常に抱えることになります。
実際に自分が経験したことですが、あるベーシストとスタジオで演奏をしていたところ、彼のベースの音がどんどん小さくなっていきました。
もちろん原因は、彼のベースがアクティヴ・タイプだったので電池切れだったのですが、彼は中古で入手してアクティヴだったとは知らず、大変驚いていました。
そのような時は、アクティヴだから、という発想よりも、ベースの電気系統かアンプ、もしくはケーブルに原因がある、と思ってしまうものです。
また、別のバンドでの話ですが、ライブでの演奏中に、電池がなくなってしまい、ベースの音が全く聴こえなくなってしまったことがありました。
その頃の自分は、アクティヴ・タイプのベースには電池が必要あるとは全く知らず、ライブ中で焦りもあって、パニックになったことがあります。
演奏を止める訳にはいかないので、とりあえず1曲終わるまで当て振りを続けた記憶があります。
これらの状況の時、もしアクティヴとパッシヴの切り替えが可能なベースであれば、音質などが変わってしまったとしても、音が出ないという最悪の事態は避けられたはずです。
先に書いたとおり、電池は残量が分からないため、保険をかける意味でもアクティヴとパッシヴが切り替えられるベースであるのに越したことはありません。
バンドやジャンルによって使い分けられる
アクティヴとパッシヴが切り替えられるベースをおすすめするのは、もちろんトラブル防止だけではありません。
バンドやジャンルにとって必要な音を使い分けることが出来ます。
3ピースバンドや、オールドなハードロックやパンクをやろうとする場合、クリアで音質の良いアクティヴ・ピックアップでは音を薄く感じる場合があります。
そのようなバンドやジャンルの時は、パッシヴ・ピックアップに切り替える方が合います。
逆にファンクや大編成のバンドの場合は、パッシヴ・ピックアップだと音抜けを上手くコントロールするのが難しいのですが、アクティヴ・ピックアップであればクリアに抜けくれるので、闇雲にヴォリュームを上げなくても良いのです。
もちろん、今挙げた例は分かりやすい面を書きましたが、色んなケースがあります。
しかし、アクティヴとパッシヴを使い分ける事が出来た方が、幅広く対応可能なのは間違いありません。
まとめ
アクティヴ/パッシヴの切り替えが出来る事は、電池切れというトラブルを防ぐためだけでなく、サウンドメイクの観点から言っても大変有効です。
アクティヴ・ピックアップ自体にコストがかかるため、通常の機種より費用はかかりますが、1つあるだけで十分です。
もしくは、現在使っているベースでどちらかの機能しかない場合でも、パッシヴやアクティヴの取り付けや改造をしてくれるところもあります。
楽器屋さんやリペアーショップで相談してみてください。
アクティヴ・ピックアップを使用する場合は、3か月に一回程度は必ず電池を入れ替えるなど、定期的にチェックをするようにしてください。
特にライブ前からは新しいものに入れ替えた方が無難です。
ベースの音作りでエフェクター、イコライザー、プリアンプは使うべき?
Fender社から初のエレクトリック・ベースであるプレシジョン・ベースが発表されるまでは、ベースと言えばアップライトしかなく、当然生音でした。
1951年、プレシジョン・ベースが世の中に出て初めて、ドラムとは異なり、ベースもギター同様アンプから音を出す電子楽器となりました。
そして今日ではベースはアンプ直結だけではなく、エフェクターやプリアンプ等、色んな機材を使って音作りが可能になっています。
果たしてベースの音作りでは、どこまで機材が必要なのかを考えてみました。
エフェクターは使うべき?
自分のアンプを持っていて、尚且つそれで自分のイメージするサウンドをいくつか作る事が出来る人は、あえてエフェクターを使う必要はないかもしれません。飛び道具的なエフェクトであれば持っていても良いかもしれません。
自分のアンプは持っていないが、特殊効果も狙う音は不要なのでエフェクターはいらない、という方も、普段使っているアンプに合わせて音を作るになると思いますが、その場合でも持っていた方が良いエフェクターがあります。
それはコンプレッサーです。
ベース・アンプを演奏場所に持っていけない場合(たいていの場合はそうだと思いますが)、ライブハウスやスタジオで色々なアンプを使用することになりますが、しょぼいアンプやチープなアンプをを使う場合でも、コンプレッサーをかます事でそこそこの仕上がりにすることができます。
実際に私がベース・アンプで一番違いが気になる点であり、変える事ができないのがコンプレッサーによる音の圧縮感です。
音質については、アンプに装備されているEQで何とか操作出来たとしても、コンプ感についてはエフェクトに頼らざるを得ません。
決して必需品、という訳ではありませんが、コンプレッサーはあるととても便利なエフェクターです。
その他のエフェクターについては、効果音が欲しい場合は使うべきだと思いますが、無理に一式揃えて使う必要はありません。
逆に、使わないエフェクターを直列で繋げているだけでも、ただ音質劣化とノイズを招くだけになってしまいます。
必要なエフェクター以外は、なるべく繋がないでおくのが鉄則です。
但し、スイッチング・システム等でエフェクターを並列接続して使用可能なシステムがある場合は問題ないと思います。
余談なのですが、知り合いのベーシストがエフェクターを使わないのに、足元に幾つもエフェクターを置いている人がいましたが、使わないのになぜ置いているのかを聞いたら、「舐められないためのハッタリだ」と答えられて、驚いた事があります。
まあハッタリで置くのも良いかもしれません。
イコライザーは使うべき?
イコライザーが必要なベーシストは、以下のようなタイプだと思います。
1.スラップ、指弾き、ピック弾きを使い分ける
例えば、普段は指弾きがメインなのですが、楽曲の途中だけスラップを使う場合、その時だけイコライザーをOnにするというような使い方です。
スラップ奏法を使う場合、どちらかというとドンシャリの音の方が派手で良いのですが、指弾きやピック弾きも楽曲中で使われる時は中域を強調したい、そのような場合にこういった使い方が可能です。
ただし、不自然に急激な音質変化にならないよう、あらかじめセッティングしておく必要があります。
2.違う種類のベースを持ち替える
同じ機種のベースを持ち替える場合は、さほど問題にならないかもしれませんが、違う機種のベース(例えば、ジャズベとプレべなど)に持ち替える場合、音の調整が必要になってきます。
この場合、一方のベース用にイコライザーをあらかじめセッティングしておき、持ち替えた時にOnにすれば、手早く対応する事が出来ます。
また、ベースソロなどのヴァースで、音量を上げたり、音質を変化させたりして目立たせる時に使うのも良いかもしれません。
上記以外で、単純にアンプのEQの補正目的であれば、イコライザーではなく先に挙げたようにコンプレッサーか、あるいはプリアンプを導入する方が良いと思います。
プリアンプは使うべき?
こちらも自分のアンプがあって、そのサウンドに満足していれば全く必要ないと思いますが、様々なアンプを使う場合は用意した方が良いです。
特に、パワーアンプ部に直結できるようなタイプは、サウンドメイクにこだわる事ができます。
プリアンプがあれば、原音系やダイナミクス系のエフェクター(コンプ、EQ、ドライヴなど)はほぼ必要ないかもしれません。
セッティングもアンプと同じ感覚ですぐ出来ますので、ライブ時の転換やスタジオでの準備をかなり短縮できますし、ヘッドを持ち歩くよりも楽に持ち運べます。
ただしヘッドは、最近は車がなくても持ち歩けるような、小さくても十分な機能を備えているヘッドが複数のメーカーから販売されています。
話を戻しますが、プリアンプはエフェクターよりも価格が高いですが、自分のサウンドを追求する、どんな場面でも自分のサウンドを出したい方は必須と言えます。
以上書いてみましたが、ここで紹介した方法はほんの一例です。もちろん、プリアンプを使っているからと言ってコンプやEQをかましてはいけない訳ではありません。それで良い音が作れれば、それが正解なのです。そのような場合は迷わずに自分の感覚を信じて試してみましょう。