バンドでのベースの役割について、ちょっと立ち止まって考えてみましょう。
ベースは、「バンド・アンサンブルの基礎となる音とリズム」を担っています。
具体的には、コードのルート音を弾くことで調性を支えたり、バスドラムとともにリズムのボトムを鳴らすことでバンド全体に安定感を出したりします。
もちろん、ルート音だけを単純に弾き続けていると、楽曲は単調になってしまいがちです。
今回は、ベースのルート弾きの重要性と、ルート音以外への脱却方法についてまとめた記事をお届けします。
ベースのルート弾きの重要性と、ルート音以外への脱却方法。
3コードのいわゆるロックンロール、そしてパンクやメロコアと言ったジャンルでは、ベースはルート弾きが用いられる傾向が非常に多いです。
逆に、これらの音楽らしさを決めているのは、ルート弾きとも言えます。
しかし、ルート弾きは、「同じ音を連続で弾き続ける」せいか、簡単・単純と思われてしまい、技術や音楽的知識のないベーシストがやるもの、と誤解されがちです。
一方、ルート弾きの重要性を知っているために、ルート音を意識し過ぎて、1拍目の最初の音は、ルート音以外を選択できなくなってしまうベーシストもいます。
ルート音を意識することは、ベーシストにとって基本ですが、違う音を選択していくことで、メロディを作るだけでなくリズムやグルーヴ感も変化させることができます。
以下で、ベースにおけるルート弾きの重要性を確認して、それを踏まえた上でルート音以外の音への脱却方法を考えてみましょう。
特にベース初心者の方には効果的だと思いますので、ルート音以外を弾いて幅を広げたい、と考えている方は、ぜひ読んでみてください。
ルート弾きの重要性
まずは、ルート弾きの重要性について、改めて考えてみましょう。
ルート弾きで大事な点は、「ベースがバンド全体をグイグイ引っ張っている」イメージを持つことです。
アクセントの位置、ハシリ、モタリなど、楽曲にもよりますが、アタックの強さとタイミングで表現します。
ルート弾きを、単に「同じ音を8分音符でズレないように弾き続ければ良い」くらいに認識していると、バンド全体のサウンドに影響してしまいます。
まるで太い綱でグイグイ引っ張っていくような牽引力は、ベースのルート弾きでしか出すことが出来ません。
これがアンサンブルの力強さや安定感にも繋がっていきます。
この部分は、特にスピード感のあるロック系の楽曲では重要になります。
例えば、あるアーティストのルート弾きの楽曲をカバーしようとした場合、一見すぐに覚えられそうですが、単にフレーズをなぞって弾くだけでは、その楽曲のカッコ良さは出せません。
ジャズであればスウィング感、ファンクであればグルーヴ感、そしてロック系では力強く引っ張るようなベースが必須と言えます。
ルート弾きは、ちょっと聴いただけでは同じ音を、同じ音量と同じリズムで弾き続けているだけ、と思いがちですが、前述の通り、それだけではありません。
ルート弾きでは、それぞれの音のアタック、アクセント、リズムを刻み続ける細かなタイミングなど、1つ1つの音に対してどれだけ注意を持てるか、それを弾き続けられるかが大事で、難しいです。
ルート弾きの名手
ルート弾きの名手というと、必ず名前が出るのが元Boowyのベーシスト、松井常松氏です。
Boowyはバンドのお手本のような楽曲が多くありますが、松井氏のベースは基本に忠実なルート弾き、といった感じですね。
Boowyの代表曲でもある「Working Man」の間奏でのルート弾き・ダウンピッキングは圧巻ですので、ぜひ聴いてみてください。
彼のプレイスタイルに言及しているところはいくらでもありますので、もう1人のルート弾きの名手を紹介します。
サンハウス~シーナ&ロケッツのベーシスト、奈良敏弘氏です。
個人的に、彼は日本で一番と言えるくらいルート弾きがすごいと思います。
特にサンハウス時代の楽曲「カラカラ」では、地を這っていくような鬼のルート弾きを聴かせてくれています。
大変参考になるので、ぜひ聴いて見てください。
ルート音以外への脱却方法
ルート弾きの持つ重要性や難しさを理解して、自分のベース・フレーズを発展させていくわけですが、「ハズす」ことが怖くなってくることもあります。
ルート以外の音を入れてラインを作ると、ルート弾きで出せていたような力強さや牽引力が、出せないのではないかと思ってしまうのかもしれません。
ルート音以外の音も活用し、より音楽的なベースを弾きたいと思うのであれば、まずは、コードの理解が必要になります。
ここまでルート弾きの重要性を書いてきましたが、そのデメリットは、音楽的なフレーズが単純化・マンネリ化してしまう点です。
ギタリストやキーボーディストまでとはいかなくても、コードへの理解があるベーシストは大変重宝されるでしょう。
例えば、キーがAメジャーの楽曲であれば、ルートはAですのでA音を弾き続けることになります。
それルート音以外のコード構成音は、C#とEになります。
つまり、ルートのA音と合わせて全部で3つ音を使ってフレーズを作る事が出来ます。
また、コード・トーン以外の音であるテンション・ノート、あるいはそれぞれの経過音を加えることも可能です。
ルート弾きをしていて、AからGへ進む場合に、A→C#→Eと弾いた後にGへ向かう、とします。
EからGへ移動する途中にF#を挟む事で、滑らかなフレーズになるはずです。
Fでは、キーはAですので、キー以外の音になってしまうため、F#を使っています。
まずはコードの構成音を考えて、どう移動していくかということから始めてみてください。
その中で使えるラインが出来たらストックしておく、という練習を繰り返すことで、フレーズを作る能力も磨かれていくと思います。
ルート弾きはリズム感が重視されるロック系、ルート以外の音でラインを作るのはメロディックなポップ系、というのが大まかなイメージです。
ベースのコードの弾き方・押さえ方・覚え方のコツについて。
ベースは基本的に単音弾きが中心で、複音で鳴らすことは余りありません。
ましてや、コードを弾くケースは、ほんとどないと言って良いでしょう。
バンド・アンサンブルの中では、ギターやキーボードがコードを担当しています。
ですが、中にはコード的なアプローチをベースで行う人もいます。
ここでは、ベースでコードを弾く方法を紹介していきます。
1弦2弦、もしくは2弦3弦の2音で弾く
ベースでコードを弾かない理由は、「低音部で複数の音を鳴らすと、音がぶつかってしまう」という点です。
音がぶつかるということは、濁って聴こえてしまい、音程感を失ってしまいます。
ですので、ベースでコードを弾く場合は、比較的高音部の1弦、2弦、3弦を多用します。
例えば、Eメジャー・コードの場合は、2弦14フレットと1弦13フレットを押さえて弾きます。
Emの場合は、2弦14フレットは変わらず押弦したままで、1弦12フレットを押さえます。
コードの基本は、ルート-3rd-5thで成り立っています。上記の例に当てはめると、
- 2弦14フレット ルート音(E音)
- 1弦13フレット M3rd音(G#音)、1弦12フレット m3rd音(G音)
5thの音は、メジャーとマイナーの決定には関与しないので、省略してしまいましょう。
ルート音に対して、メジャー・コードの場合は1本高い弦の1フレット、マイナー・コードの場合は1本高い弦の2フレット低い場所、とすると覚えやすいと思います。
このプレイを実際に使った楽曲を紹介します。ハードロックバンド、Mr.Bigの「Green Tinted Sixties Mind」のイントロが、代表的かつ最も分かりやすいプレイだと思います。
ギターの複音トーンのようにも聴こえますが、太さはベースならではでしょう。
下記Youtubeのオフィシャル・ビデオの0:09辺りから聴くことが出来ます。
また、ルート音+5thの音のケースでは、椎名林檎の「丸の内サディスティック」のベース・ソロ部分の後半がそれに該当します。
先ほど紹介したものとは逆に、3rdを弾いていないので、無機質なサウンドに聴こえるのが特徴です。
これは、ルートを押さえている弦に対し、1本高い弦の2フレット高い音を押さえます。
ギターでいう「パワー・コード」のフォームをイメージしてください。
Eであれば2弦14フレットと1弦16フレットで、メジャー/マイナー関係無く同じポジションです。言い換えれば、メジャー/マイナーどちらのコード上でも弾くことが出来るわけです。
ルート音+5度の音を4弦、3弦で弾く
4弦と3弦を中心にコードを弾く場合、ベースを通常より歪ませるセッティングが必須と言えます。
低音弦中心で、しかも3rdを弾かないので、太くて無機質な重低音を狙って出すことになります。
このような音を必要とするのは、トリオ・バンド等で音を分厚くするために行うベーシストが多いのですが、代表的な例はモーターヘッドというHR/HM系のバンドです。
このバンドのベース・ボーカルであるLemmy Kilmisterは、このルート+5thの音を多用するプレイヤーです。
押弦の方法は、先ほどと押弦する弦が異なるだけで、基本的なフォームは同様です。
例えばEであれば4弦12フレットと3弦14フレット、もしくは4弦開放弦と3弦2フレット(これはオクターブの関係)となります。
音の低さ・太さを考慮して選択しないと、音程が濁ってしまいます。
3音4音重ねて弾く
ベースという楽器の特性や役割を考えると、3音以上重ねて弾くことは求められていません。
また、他の楽器との音とぶつかって邪魔をするということもありますが、使用例がないわけではありません。
代表的なプレイは、ゲスの極み乙女。の「キラーボール」です。
2:30辺りからコードを用いたフレーズが多用されています。
通常のベースのトーンでは、先ほど書いた通り、3音も重ねると低音が濁ってしまって、このようなコードには聴こえなくなります。
EQで補正するかあるいはファズのようなエフェクトを使って、低域をある程度カットしてコードとして成り立つようにしています。
プレイとしては面白いですが、ここまでして必要なのか、ギターではなくあえてベースがコードを弾く理由は確かにあるかのかなど、用いる場合は十分検討するのが良いでしょう。
上記のフレーズのコードは、ルート音+5度+1オクターブ上の3音で弾いています。
低音の濁りに気を付けよう
上記のいずれの場合でも、ベースでコードを弾く場合には、低音が重なって音が濁り、何を弾いているか分からなくなってしまわないようにしましょう。
ベースでコード、もしくは複音を多用する場合は、EQやファズなどのエフェクトを使って、低音域を調性するのが定石になります。
しかし、「ベースらしさ」である太い低音を犠牲にして、ギターやキーボードの役割であるコード弾きを行う必要があるのか、全体のアレンジは十分に検討してください。
意外な響きが欲しいなら、正直ギターにエフェクターをかますか、シンセサイザーで作る方法もあります。
もちろんその独特の音や、濁った音が必要なのであれば、それで大丈夫です。
ルート弾きにしてもルート以外の音や複音を使う場合には、その楽曲でどのような音が必要なのかを考えることが大事です。