ボーカルと楽器の周波数帯域の違いについて。

音が聴こえる、のはなぜなのでしょうか。そして音とは何なのでしょうか。

私たちは余りに普通に、日常生活などで音を聴いているので、原点を考えることはあまりないかもしれません。

音とは、空気を伝わっていく一種の波(振動)です。

その波の大きさが音量でdB(デシベル)、波の高さが音程でHz(ヘルツ、1秒当たりの振動数)という単位で表します。

そして波の形が音色になり、これら3つが音の性質になります。

これらの要素が音を構成し、時間の経過とともに周期的な変化をしていくのです。

今回注目してみたいのが、音の周波数についてです。

簡単に説明すると、周期的な音の高さの変化に注目していきます。

音は、周波数の値が低くなるほど低く聞こえ、値が高くなるほど音は高く聞こえるのですが、低くなり過ぎる(約20Hz以下)、または高くなり過ぎる(20kHz以上)と、人間の耳では聞き取れなくなり、これを可聴域といいます。

ここまで、学校の物理の授業のような話をしてしまいましたが…、ここからは学問的な話ではなく、音楽への話へとシフトさせます。

個々のパートのサウンドメイクや、全体バランスをとるミキシングの際も、この周波数をどのように調整するのか、それが最終的な楽曲の完成度に大きく関わってきます。

各パートの良さを出すのか、大胆に変えてしまうのか、そして各パートでぶつかっている周波数帯域はどうするかなど、非常に繊細で重要な作業になります。

特にボーカルは、個人差が非常に激しい音です。

男女の差だけでなく、個性、曲想など、様々な要因があり、周波数帯域を操作するイコライジングが最も難しいと言われています。

今回は、ボーカルとその他の周波数帯域の違いと、一般的な調整についてお話していきます。

ボーカルと楽器の周波数帯域の違いについて。

1.それぞれの楽器に含まれる周波数

まず、各楽器における特徴的・中心的な周波数帯域は、大まかに説明すると以下のとおりになります。

  • キック 80~100Hz
  • スネア 800~1.2kHz
  • タム 100~300Hz
  • シンバル 220~300Hz
  • ストリングス 200~300Hz
  • ブラス系 200~300Hz、6000Hz付近
  • トランペット、サックス 200~400Hz,、3000Hz付近
  • アコースティック・ギター 2000~5000kHz
  • エレレクトリック・ギター 1000~3000Hz
  • ベース 80~100Hz
  • ボーカル 1000~5000Hz(女性であれば8000Hzあたりまで)

ここで、注目していただきたい楽器が、スネア、アコースティック・ギター、エレクトリック・ギターです。

これらの楽器の中心的な周波数帯域は、ボーカルの周波数帯域に近い値を多く含んでいることが分かると思います。

余談ですが、エレクトリック・ギターも、ある意味でボーカル以上に、演奏者や演奏方法、エフェクターの使用などによって、周波数帯域はかなり広くなってきます。

ボーカルが持っている中心的な帯域と、他の楽器の帯域が被ってしまうと、ボーカルが聴こえにくくなってしまいます。

他の楽器に埋もれた印象になってしまい、「音抜けが悪い」、「後ろに下がってしまっている」といった状況は、誰もが経験されているのではないでしょうか。

特にリスナーは、ボーカルを注視して聴いていますので、せっかく良い楽曲、良い演奏で録音できたとしても、抜けが悪い印象を持たれてしまうでしょう。

この周波数帯域に対する理解がないと、単に音量を上げる、下げるといった操作をしてしまい、ボリュームのバランスが崩れてしまうのです。

また、音量を上げるようとしてボーカルがさらに声を上げてしまい、喉を痛めるということもよくあるケースです。

このような場合には、ミキサー側のイコライザーを使い、各パートの周波数帯域の調整を行う必要があります。

ボーカルの帯域を調整するのか、他楽器の帯域の調整をするのか、同じ楽曲でも印象が異なってきます。

しっかりと目的イメージと全体バランスを確認しながら、周波数帯域のブースト/カットを行っていきます。

2.ボーカルのイコライジング

それでは、一般的なボーカルのイコライジング方法について書いていきます。

まず、エフェクトの設定やミックス作業について、明確なルールがあるわけではありません。

また、先にも書いたように、ボーカルは最も調整が難しい音です。

一般的な例を紹介しますので、自分が狙った調節が出来るように色々と実験してみましょう。

女性ボーカルは、8kHzあたりを3dBほどカットします。

男性ボーカルには、この辺りの周波数帯域があまり含まれていないため、こもった印象になりがちで、抜けも良くないため、逆に1dBほどブーストすると良い場合があります。

音をよく聴いて判断しましょう。

続いて、女性では、300Hzと700Hzあたりを3dBほどブーストします。

男性では、5kHzを3dBほどカットし、7lHzを2dBほどブーストします。

これは女性・男性の声の一般的な特徴となる帯域を強調するイコライジングになります。

より「らしく」聴かせられる設定と考えてください。

イコライジングを行う場合は、他の楽器との関係も考えて調整を行うように心がけましょう。

特にギターは、通常のバッキングであればボーカルと対峙する場合が非常に多く、特徴となる周波数帯域も重なっているところが多いため、どちらを、どの程度補正する必要があるのかが非常に重要になります。

もちろん、楽曲中で聴かせたいパートを強調するイコライジングが基本なのですがl、ただブーストするだけでなく、カットすることも大事です。

初心者の方は、カットをする勇気がなかなか持てないかもしれませんが、何度も音を聴いて、相対的に判断しなければなりません。

また、聴き手にとっては、ボーカルが最も伝わりやすいものです。制作者が意図したほど、リスナーはバックに耳が行っていません。

一度聴いただけで、そこまで把握出来るものでもないです。

その点を踏まえながら、帯域の調整を行っていくと、良い結果が得られるでしょう。

3.最後に

ここまで説明してきたとおり、ボーカルは周波数帯域の幅が広く、また個人差が激しい音ですので、イコライジングは非常に難しいです。

特に男性ボーカルは、女性ボーカルに比べて中音域に特徴があるため、同じように中音域にキャラクターを持っているギター、スネアなどとぶつかる場合が多く、この調節がミキシング技術の真価が問われます。

今挙げた楽器は、バンド・サウンドでもメインになるため、何を中心に聴かせたいのかを明確に意識しておきましょう。

しかし、よく言われる言葉が、ミキシングやイコライジングに定番の手法はあっても、「こうしなければならない」というルールはありません。

言い換えると、誰もやっていない、やらないような技法が、新しい音楽を生み出す可能性も秘めています。

シューゲイザーなどは、一見破綻したようなミックスで、極端なギター・サウンドを作っていますし、ダブは、レコーディング技術を演奏に転化させた音楽ジャンルです。

重要なのは、どのようなサウンドを目指しているのかをしっかりと持ち、そのための技術と知識を磨いて具体化していく作業が、エンジニアの能力と言えます。

現代の音楽シーンでは、演奏者だからエンジニアリングには一切タッチしない、という時代ではなくなりました。

演奏者であっても、イコライジングに対する正しい理解を持つことで、スタジオ・レコーディングや、ステージでの演奏、楽曲作りにも大いに活かせることが出来るでしょう。

ボーカルを宅録する時の防音対策について。

宅録をする人にとっては、自宅でのマイク録音は、非常に気をつかう作業です。

日本という狭い国土の住宅事情を考えると、よほど田舎の離れた広い一軒家にでも住んでいない限り、同居者や近隣の方の迷惑にならないようにしなければいけません。

そのため、マイク録音時の防音対策は、必須と言えるでしょう。

特に都市部のアパートやマンションでボーカルを録音する場合、上下・両隣の住民に迷惑をかけないように注意してください。

最も理想的なのは、やはりスタジオを借りることです。

当然周辺の人に迷惑をかけませんし、何よりも録音に必要な最低限の機材が一式揃っており、手軽に使えるからです

そうは言っても、アイディアを思いついたら即録音したい、アレンジやミックスのイメージを膨らませるための仮録音をしておきたいなど、自宅の方が効率的な場合もあると思います。

しかし、建物の構造上からの問題で、壁が薄い部屋では防音に限界があります。

どのくらいの音量なのかにもよりますが、正しい知識による防音対策を行うことで、思った以上の効果が得られるものです。

今回は、ボーカルを自宅で録音するときの防音対策について紹介していきます。

ギターなどの他のマイク録りの際にも、参考にしてみてください。

1.音の習性を知ろう

まず、防音対策を確実にしっかりと行うためには、音の習性、物理学上の「音」というものを理解しておく必要があります。

普段の生活では考えない、気にも留めないような音の特徴を、科学的な視点で考えていくと、どのような対策が良いかが見えてきます。

そうは言っても、学校で勉強するような専門的知識までは必要ありませんので、基本的な特徴的だけを覚えておけば大丈夫です。

以下の3点が、音の主な特徴です。

  • 音は、直線方向に進み、多方向に拡散していく。
  • 低い音は下に、高い音は上に、それぞれその方向へ拡散していく。
  • 音は空気振動であるため、空気が漏れない密閉空間では、音も漏れづらい。

宅録だけに限らず、演奏する場所・空間では、常にこの事を意識するようにしましょう。

今までは「音楽的」にだけ音に気を配っていたかもしれませんが、「科学的」に音を意識することで、普段とは違った音の出し方、聴こえ方を考えたプレイが出来るかもしれません。

少々話がズレてしまいましたが、まずは上記の3点に絞って、防音対策を考えていきましょう。

2.防音対策

・(1)歌う方向に防音材を貼る

上記の主な特徴で挙げたように、音は発音体から直線方向に進んでいきます。

ですので、歌う方向(マイクを設置している方向)に向かって防音対策を行うのが基本になります。

壁に防音加工が施されていても、さらにその上から市販の防音材を購入して設置すれば、より万全でしょう。

防音材を設定する高さは、発音体と同じ高さにすることが最も効果的なので、顔の高さに合わせます。

音は、直線方向だけでなく、発音体から放射状に拡散していくため、側面や逆方向にも防音対策をしておく必要があります。

・(2)低い音は下に、高い音は上に拡散する

音は、低ければ低いほど(低音域を多く含んでいるほど)下に、高ければ高いほど(高音域を多く含んでいるほど)上に、拡散していく習性があります。

ヘッドフォンなどで音楽を聴くと、その習性、音全体に立体感を感じると思います。

ボーカルは比較的高めの音なのですが、特に女性ボーカルはかなり高音域を含んでいます。

コーラスなどで使われる女性ボーカルになると、ファルセットなどを使うことで、より高音域にポイントを有していることになります。

この場合の防音対策としては、発音体よりも高い位置に防音材を設置するのが効果的です。

男女ともに、楽器のように安定的な強い低音域は出せませんまので床よりも天井に防音材を設置する方が対策になります。

・(3)窓や扉の隙間を埋める

音は空気中を伝達していきますので、僅かな隙間があっても、そこから漏れて伝わっていきます。

逆に言えば、空気を遮断すれば、音は伝達しないということになります。

ですので、発音体のある空間の全ての隙間をきっちりと塞いでいく必要があります。

普段の生活で気が付かないような点は、ドアや窓が考えられます。

これらは通信、目張りして完全に塞いだりはしないからです。

ホームセンターなどで帰る布テープなどを使って、僅かな隙間でも塞いでいきましょう。

強力は粘着力のあるテープほど、密閉した空間を作れますので、防音対策か完璧になります。

一方で、テープを剥がすのに苦労しますし、剥がした時に貼った後がベタついてしまう可能性もあります。

3.まとめ

ここまで、手軽で安価に行うことができる防音対策を紹介してきました。

究極的には、他人に迷惑がかからずに優れた録音環境があれば良いわけで、「防音性能の高い場所に住む」、「プライベート・スタジオを購入する」ということになります。

しかし、ほとんどの方にとって、現実的ではない方法でしょう。

お金がない場合には、やはりアイディアと工夫で対応するしかありません。

今回紹介したような知識で防音対策グッズを用意するか、リハーサル・スタジオを借りて録音作業を行うのが良いです。

防音対策は、自室でも手軽に行えますが、録音のための機材一式を個人で用意するのは、金銭的にもスペース的にも、そしてメインテナンスの観点からも難しいです。

個人でスタジオを借りる方が遥かに安く、一通りの機材が用意されています。