今や日本だけでなく、ワールド・ワイドに活躍する布袋寅泰氏。
1980年にBoowyのギタリストとしてキャリアをスタートさせ、ソロ活動やセッション・ギタリスト、そしてコンポーザー、プロデューサーとして活躍されています。
彼以前にも、もちろん日本にはChar氏など有名なギタリストは多くいました。
布袋寅泰氏も、日本国内のギタリストは当然チェックしていましたが、「理想のギタリスト」というとT. RexのMark Bolanという意外な答えをしています。
通常は、Eric ClaptonやJeff Beck、Jimi Hendrixといったギター・ヒーローを挙げがちですよね。
今回は、ギタリストとしての布袋寅泰氏についての記事です。
ギター・テクニック
布袋氏と言えばギターというくらい、そのイメージは強いと思いますが、ギター・テクニックという面から言えば、技術的な速弾きなどを追求するようなタイプではありません。
リフやカッティング、印象的リード・プレイなど、一度聴いたら耳に残るような、自分もギターを弾いてみたい、と思わせるような所が、彼の最大の特徴と言えるでしょう。
本人のインタビューでも、ギンギンに歪んだギターで押していくような、技術を見せ付けるような音楽には興味がないと話しています。
BoowyやComplexなど、カリスマ的なボーカリストと対峙しているギタリストとしての彼が魅力的なわけですが、そのギターは、あくまでもアンサンブルの中に存在しています。
イントロやギター・ソロで聴かれるサウンド、歌のバックに徹しているカッティングで、その楽曲が何なのか分かるのです。
彼は、「人と同じではいけない」「人と同じ音を出してはいけない」という気持ちを大事にしているそうです。
それは、幾何学的な模様でペイントされた、Fender Telecasterタイプの布袋モデルのギターにも表れています。
本人曰く「弾きにくくて、使いにくい」ギターだそうで、実際にレコーディングでは他のギターを使ったりもするそうです。
良いギターで良い音を出すのは簡単だけれども、それは「普通」の事であって、そうではなく「鳴らない」ギターを自分自身でどれだけ「鳴らせる」事ができるか、という考えでプレイしているそうです。
考え方までロックですね。
現在はインターネットで調べればギターの弾き方から、様々な音楽のアプローチの仕方まですぐに閲覧可能です。
しかし、自分でその考え方に辿り着くというのは、本当に視点を広く持っていて、色々な経験をしないと難しいのではないでしょうか。
彼の音楽に触れると、ギタリストの技量というのは、超絶テクニックを持っていることではなく、その考え方や音楽性にあるということが分かります。
カッティング
布袋氏のギターでよく話題に上がるのは、Boowy時代の楽曲「Bad Feeling」のイントロのカッティング・プレイでしょう。
独特なリズムとタイム感、そしてダンス音楽に仕上がっているのは、当時のロックバンドの楽曲としては、誰も挑戦していませんでした。
これは布袋氏が、一般的なロックばかり聴いていたのではなく、黒人音楽をルーツに持つダンス・ミュージックへの理解の深さを示しています。
Wah Wah WatsonやJohnny “Guitar” Watsonなど、ファンク少年だった、と本人もインタビューで語っています。
この話を踏まえて「Bad Feeling」のイントロを聴くと、ファンクのカッティング、しかし布袋氏独特のリズム感で、自分自身の音楽に消化していることが分かります。
ギター・ソロ
小指はほとんど使わず、基本的には3本の指で押弦しているようです。
ペンタトニック・スケールを基本とした基礎的であって、音楽的に難解なフレージングはあまり使っていません。
しかし、ギター・ソロでは、いきなり転調させたり、今まで全く使わなかったコードを持って来たり、そしてアーティキュレーションを駆使した作りが特徴です。
そして何より、歌えるような印象的フレーズが非常に多いです。
テクニック偏重ではない、と書きましたが、例えば「Fly Into Your Dream」のように、5分を超えるような壮大で変化に富んだアドリヴ・ソロも彼の魅力で、まるでギターの全てを知り尽くしているかのようなギターは圧巻です。
ギター・サウンド
使用しているギターは、Zodiac Worksの布袋モデルがメインです。
かつて、このギターはFernandezから製作されており、永遠のロングトーンを得られるサスティナー付きなど、かなり先進的な機種も使っていました。
「みんながStratocasterやLes Paulを使っていたから、自分はTelecasterを選んだ」と言っていますが、彼の本質であるリズム・ギタリストとしての感性と、ぴったりだと思います。
彼のサウンドは、比較的歪みが浅く、トレブリーでエッジの立った音が特徴です。
Boowy時代には、常にハーモナイザーをかけっぱなしにして、2台のアンプからステレオ出力させていたりもしていました。
ギタリストが1人のバンドであったため、色々な試行錯誤が行われたのでしょう。
最新テクノロジーを常に取り入れていますが、反対にエフェクターは年々シンプルになっているようです。
近年ではFree The Toneの全面協力で、ハイ・クオリティなサウンドを追求しているようです。
分かりやすさ
誤解を恐れずに書きますと、彼のギターの最大の特徴は「分かりやすさ」にあると思います。
本当に印象的で、口で歌えるようなフレーズですので、すぐに弾けるようになると思いますが、彼のCDと合わせて弾いてみると、「何かが違う」と感じてしまうのです。
古い話ではありますが、日本の古参のギタリスト・寺内タケシ氏が、90年代初頭に当時のシーンの中心にいたギタリストを聴き比べた事があったそうです。
その時、他のギタリスト(Steve Vaiとかハイテクニック系が多かったようです)にはあまり共感しなかったのですが、布袋氏のギターを聴いた時は笑顔になって「この人本当にギター好きな人なんだね。すごく楽しいギターだ」と言ったそうです。
また、80年代・90年代にギターを始めたキッズは、ほとんどがあの「ギタリズム・ギター」に憧れ、こぞって彼のコピーをしていました。
例えば、彼が作曲した映画「キル・ビル」のテーマ曲「Battle Without Honor Or Humanity」はそういった「分かりやすさ」を表すとてもいい例だと思います。
バラエティ番組のSEにも頻繁に使われるので(この楽曲以外にも、彼のギター・フレーズはよく使われます)、布袋寅泰を知らない人でもこの曲は聴き覚えがあると思いますが、それくらいキャッチーで分かりやすい曲だと思います。
また、Charと共演している「Stereocaster」も、最初のフレーズを聴けばすぐ覚えてしまうようなシンプルでキャッチーなフレーズで、いかにも布袋氏らしいフレージングと言えます。
布袋氏自身のヒット曲に使われているギター・リフも、分かりやすく印象に残るものが本当に多いです。
作曲能力
自身の楽曲以外にも、奥さんである今井美樹やTOKIO、ももいろクローバーZ、相川七瀬などへの楽曲制作も行っています。
他のアーティストへの楽曲制作だけでなく、セッション・ギタリストとしてレコーディングやライブにも参加しています。
彼の作曲方法は、もちろん楽曲にもよりますが、単に弾き語りやリフ、というのではなく、全体を総合的に考慮して作られていくようです。
このようなプロデューサー視点は、Boowy時代から培われていったようですね。
布袋寅泰という個性、そしてギタリストとプロデューサーが同居したかのような佇まいが、彼の魅力だと思います。
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