有名なギタリストの使っているギターや周辺アクセサリ、機材などはどうしても気になるものです。
特に有名な方が使っているメーカーは、ファンでなくても一般的に知られています。
そのギタリストの音に少しでも近づこうと思うものですが、いざ一式揃えてみても、何か違う、なんて経験をしている方も多いと思います。
今回は、日本で最も有名なギタリストの一人、竹中尚人氏ことCharが使用しているギターの弦についてをみていきましょう。
charの使用しているギターの弦について。
SIT ストリングス
SIT Stringsは、米国のオハイオ州アクロンに拠点を置く、ギター弦/ベース弦のメーカーです。
SITは、「Stay In Tune」の略が社名の由来で、ハイ・クォリティ弦の製作を行っています。
「Stay In Tune」は、チューニングの安定性を高めるためのSIT社の特殊技術で、チューニングが狂いにくくなる加工を施しています。
具体的にどのようなものかと言うと、チューニングに最も影響を与えるボール・エンドのネジリ部分の滑りを防止するための技術です。
芯線には、ハイ・カーボン・スチールを錫でメッキしたものを使用しており、パワフルでサスティンの効いたクリアなサウンドを出すことが出来ます。
この弦を使用しているプロのミュージシャンはかなり多いようです。
凛として時雨のTK氏、元Michelle Gun Elephant(現The Birthday)のチバユウスケ氏など、日本でも多くのミュージシャンが愛用しています。
昔は、ギターの弦と言えば、少ない工場で複数のメーカーの弦を作っていたので、基本的にはほとんど差はない、なんて記事を読んだことがありますが、現在では弦に使っている材質や加工技術も、各メーカーはそれぞれ独自のものを追求し、ギタリストの目的(安定性や耐久性など)に合わせて選択肢が非常に広くなっています。
もちろんそれらに合わせて価格もそれぞれですが、初心者の方であれば、一般的なもの、もしくは憧れのギタリストのものを使用してみるのが良いと思います。
Charは、近年Fenderのシグネチャー・モデルのMustangを使用していますが、SITの弦は、Charのサウンドによりパワフルさとサスティンを与えているのかもしれません。
Charについて
Charは、先日のGuitar Magazine誌の企画「日本のギタリストが選ぶギタリスト」で、堂々の1位に選ばれた、日本を代表するギタリストの一人です。
何を以てランキングするか、というのは難しい問題だと思いますが、多くのギタリストや音楽が好きな方が選んだ中で第1位、というのは、本当に凄いことだと思います。
彼は、高校生の頃からエレック・レコード所属のミュージシャンのレコーディングに、スタジオ・ミュージシャンとして活動していましたから、その期間も含めて、プロとして約45年もの間活躍しており、今も第一線にいるギタリストです。
今回は、そんなCharの使用しているギターの弦について調べてみました。
その前に、使用しているギターは、ファースト・アルバム発表時から、Fender Mustangを愛用しています。
Charと言えばMustang、というくらいイメージが定着しています。
Fender社から発表されたこのMustangは、スチューデント・シリーズとして製作されました。
つまり、Fender社がこれからギターを始める人向けに製作したモデルで、プロ用の使用ではありませんでした。サイズもStratocasterと比べると一回り小さく、音もサスティンがいまいち良くない、高域が強い、などの評価があります。
しかし、それらの点を含めても、自分に合ったギターとして、Charは気に入ったようです。
その特有のサウンドが、Charが求めているギター・サウンドに最も近かったのかもしれません。
張られている弦も細いもので、エクストラ・ライトゲージの0.09~0.42を使用しています。
デビューからPink Cloud時代
Charは、デビューからアイドル、Johnny, Louis & Charで活動していた時代は、Fenderのロックンロールゲージ0.09~0.42のエクストラ・ライトゲージを使用されていたようです。
代表曲「Smokey」で演奏されるような、トリッキーなベンディングを多用するのがCharの一つのスタイルだと思いますが、そのようなプレイには軽い弦の方がちょうど良かったのかもしれません。
加えて、Charはアーミングを多用したプレイも特徴なのですが、その割には弦をあまり張り替えていないようですので、ライブ中はよく弦が切れた、という事もあったようです。
昔のインタビュー記事などを見ると、「張り替えてすぐはチューニングがよく狂い、古くなってくるとアームを使っても狂わなくなり、その後また狂うようになる。」とあります。
この時代のミュージシャンは、弦の種類を選べなかったようで、様々な工夫をされたのだと思います。
しかし、Charのギター・プレイを聴くと、0.09~0.42の標準的なエクストラ・ライトゲージですが、その割に太い音を出しているように思います。
もちろん、Charのテクニックに加えて、使用しているアンプの影響などもあるかもしれません。
その後は、Ernie BallのSuper Slinkyのエクストラ・ライトゲージに変更しています。
Pink Cloud時代からはStratocasterの使用が少しずつ増えてきて、解散後はStratocasterを主とするようになりました。
CharはMustang、というのが一般的イメージですが、ストラトを抱えた彼の姿も非常に似合っていると思います。
この頃からは、ギター・テクニシャンがこまめに弦を張り替えるようになったためか、ステージで弦が切れるトラブルは少なくなっています。
そしてSitのエクストラ・ライトゲージに変更しています。
ギタリストのCharの凄さ
1970年代から現在まで、ずっと日本の音楽シーンにおいて、第一線で活躍し続けるギタリスト・Char。
彼は多く方、幅広い年代の方から、フェイヴァリット・ギタリストとして名前を挙げられています。
日本のギタリストで、彼の名を知らない人はまずいないのではないでしょうか。
一流ギタリストとしての条件とも言えるソング・ライティングはもちろん、トータル・プロデュースの素晴らしさも大きいのですが、今回はギタリストとしての彼の凄さを考えてみたいと思います。
・様々な音楽を消化しながらロックを感じさせる凄さ
Charは、小学生から楽器を始めて、11歳の頃には既にバンドを組み、16歳でスタジオ・ミュージシャンとして働き始めているので、幼い頃から音楽的な才能に溢れていたのだと思います。
もちろん、才能だけでなく、10代にしてプロ活動をしているという事は、早い時期からかなりの練習を行って技術を習得したのではないでしょうか。
センスや技術だけでなく、当時の彼の音楽性がいかに「先」を進んでいたか、を示すエピソードを紹介します。
まだSmokey Medicineを結成する前、彼のプレイを見ていたあるミュージシャンが、「Charは歪ませたおとで7thや9thを弾いている」と驚いたそうです。
現在ではそのようなコード・トーンを歪ませて弾くギタリストはたくさんいますが、1970年代前半の日本では、M7thやm7th、テンション・ノートを歪ませて弾くというのはあり得なかったそうです。
1960年代後半から、ロックの先進国・イギリスやアメリカでは、クラシックやジャズの方法論も取り込んで、次々と新しい音楽を開拓していきました。
Jimi HendrixやJeff Beckなどはそのようなプレイの先駆けでしたし、Charもかなり聴き込んで、自分のプレイに積極的に取り入れていったのです。
また、彼は同時にStevie Wonderなどのアーバンなソウル・ミュージックにも触れていたそうですから、そのような音を弾けるスタイルが出来上がっていたのでしょう。
Charは日本でもトップ・クラスのロック・ギタリスト、と言われますが、彼の音楽をよく聴くと、いわゆる「ストレートなロック」と感じる楽曲は少なく感じます。
具体的には、パワー・コード+5thやペンタトニック一発、などのギター・プレイは少なく、これらに7thや9thを加えたプレイを多用します。
個人的には、ここがギタリスト・Charの個性で、そのような都会的で洗練されたSoulやJazzを感じさせるコードを使いつつ、時折激しい「ロックっぽい」演奏を入れてくるところだと思っています。
彼のデビュー・アルバムの6曲目「Smokey」でのギターは、7thや9thといったコードを使って16分のウラ拍から入ってきます。
ここだけではむしろファンクっぽい音使いなのですが、ブレイク後にいきなりフィードバックからアーミング、というプレイを披露しています。
若い頃から様々な音楽を自分の音楽に消化して、テクニックやセンスもさることながら、それらの下地にはロックがある、という所が、Charがロック・ギタリストとしてトップにいると評価される所以ではないでしょうか。
・リズム感の立ち上がりの凄さ
ギタリストとしての必要条件の一つに、「リズム感の良さ」があります。
今度はリズム面から見たギタリストCharについて考えてみます。
若い頃から第一線にいたギタリストですので、リズム感がすごいというのは当然だと思います。
では、具体的に何がどうすごいと言われているのか、というと、リズムに対する音の立ち上がりが非常に早い、ということです。
特にロックらしいようなギター・ソロを弾くときはとても顕著で、ピッキングのアタックに対してギターの発音がすぐに反応する点です。
これはピッキング・テクニックの高さによるものだと思います。余談ですが、布袋寅泰氏も、「ピッキングに対してアタックが粒立ち、演奏が流れないプレイが理想」とインタビューで話しています。
Charが米米クラブというエンタテインメント・バンドで、ドラムを叩いた経験がある、という事はご存知でしょうか。
何でもデビュー直前にドラマーが脱退してしまい、急遽Charがドラムを叩くことになった、らしいのです。
通常であれば、いくら様々な楽器をこなせると言っても、ギタリスト・Charにドラムの依頼をする事は考えられないと思います。米米クラブの音楽性に近いスタジオ・ミュージシャンのサポート・ドラマーをオファーするはずです。
推測ですが、米米クラブの音楽性はファンクやソウルなども取り込んだような音ですので、Charのセンスに合うところがあったのかもしれません。
Charリズム感の良さを示すエピソード、と思いましたが、ギタリストである彼が、ドラムもプロ並みに叩けてしまうというのは、やはりセンスだと思います。
おまけ:Char コード
最後に、突然ですが「ジミヘン・コード」と呼ばれるコードをご存知でしょうか。
これはJimi Hendrixが多用したコード「E7#9」の事です。ギタリストの方ならば、一度は耳にした事があると思います。
非常に不安定かつ緊張感溢れるコードで、ヘンドリックスがこのコードを多用したためにそう呼ばれるようになりました。
これと同様に「Char コード」と一部で呼ばれているコードがあります。
Em7(9)を例に書いていきます。
このコードをギター・ヴォイシングは、5弦7フレット(E)、4弦6フレット(G#)、3弦7(D)フレット、2弦7(F#)フレットですが、Charはヴォイシングの際に4弦をミュートしてしまうのです。
メジャー/マイナーを決める3rdのG#がミュートされるので、結果として、それを感じない曖昧な、メジャー/マイナーどちらでもこのコードが使えてしまうというメリットがあります。
Charはこのフォームを多用し、彼の一部のファンは「Char コード」と呼んでいるそうです。
人名がコード名(通称)に使われているあたりも、やはりトップ・クラスのギタリストです。
特に若いギタリストやリスナーの方は、名前は聞いた事があっても、彼のギター・プレイを聴いた事がないかもしれません。
実際に彼の演奏を聴いてもらうことが、彼の凄さを知る一番の方法だと思いますので、ぜひ聴いてみてください。
関連記事