今回は、そのキャリアで常に日本のロック・シーンを牽引してきたギタリスト、布袋寅泰氏の使用エフェクターについての記事をお届けします。
布袋氏のギター・サウンドの主な特徴は、非常に伸びやかなトーン、高音域が強調されたエッジの効いたサウンド(これは弾き方の影響もあると思います)が挙げられます。
長いキャリアの中で、様々なギター・サウンドを披露してきた彼のサウンド・メイクは、果してどのようなものでしょうか。
布袋寅泰のエフェクターについて
布袋寅泰氏が使用しているエフェクターやそのセッティングは、当然ながらその時期によって異なります。
彼のキャリア・スタートにして、今や伝説のバンドと言われるBoowyでは、ギタリストは彼1人で(初期Boowyのギタリストは2人でしたが)、2人目以上のギタリストやシンセサイザーは、基本的にはステージにいませんでした。
当然1本のギターで音が薄くならないように、レコーディングとライブで弾き方を変えたり、エフェクトなどを駆使してバリエーションを出す必要がありました。
当時の雑誌インタビューなどで使用機材を確認すると、80年代にしては非常に先進的な、Pete Cornishのようなシステムを構築しています。
アルバム「Just A Hero」ではそれまでとは異なり、非常に多彩で幻想的なギター・サウンドを見せていました。
Pete Cornishのエフェクト・システムは、現在では世界的に活躍する多くのギタリストのサウンドを支えており、そのクオリティの高さはもちろん、ワールド・ツアーもこなせるような耐久性に定評があります。
そしてBoowy時代の布袋氏のアンプ・セッティングと言えば、Roland JC-120を2台鳴していました。
Boowy解散後にスタートしたソロ・プロジェクト「Guitarhythm」では、Boowy時代よりも歪み音が多く使われていますが、サスティナーの導入、複雑なディレイなど、さらに多様になっていきます。
その後に、実際にPete Cornishシステムを自身のセッティングに取り入れています。
さて、現在の彼のセッティングはどのようなものになっているのか、2016年12月30日に日本武道館で行われたスペシャル・ライヴの機材を見てみましょう。
このライヴは、布袋氏がデビューした1981年から2016年まで、その中から35曲を演奏するというツアーでしたので、特別に古い機材も持ち出されています。
ラック・エフェクターは2列の巨大なPete Cornishカスタム・ルーティング・システムとなっていました。
MIDIなどのデジタル制御のスイッチングシステムには、近年の布袋サウンドの要となっているFree The Toneが担当し、アナログ信号のルーティングには、Pete Cornishが担当したものとなります。
ペダル・エフェクター用のトレイ上段
それでは、ペダル・エフェクター用のトレイの中身について書いていきます。
- Providence/Sonic Drive
- Xotic/BB Preamp
- J. Rockett Audio/Guthrie Trapp
- Boss/Blues Driver 2
- Boss/Super Octave OC-3
Providence Sonic Driveは、布袋氏自身が広告塔にもなっており、ケーブルもProvidence製でした。
J. Rockett AudioのGuthrie Trappは、オーバードライブ/ブースターのペダルで、ナッシュヴィルのセッション・ギタリスト、Guthrie Trapp氏のシグネイチャー・モデルになります。
(ちなみに、Guthrie Trapp氏もFender Telecasterの愛用者です。)
ペダル・エフェクター用のトレイ2段目
続いて、ペダル・エフェクター用のトレイ2段目について見ていきます。
- Free The Tone/Flight Time
- Free The Tone/Silky Comp
- Zoom/Hyper Lead
- Boss/Delay DM-3
Free The Tone/Flight Timeは、主にソロ用のバック・ディレイとして使用されています。
プリセットの切り替えには、Free The Tone/MC-3 MIDI Controllerを使用しています。
Free The Toneとは、林幸宏氏が率いるハイエンド・エフェクターの製作・販売を手がける会社で、多くのギタリストから支持を得ています。
また、完全なハンドメイドで機材だけではなく、ツアーなど音楽全体も設計・製作しています。
近年の布袋氏のシステムは、Free The Toneとのタッグによって構築されています。
フット・スイッチ
布袋氏のステージにセッティングされているマイク・スタンドの足元には、Free The Tone MIDI Foot Controllerが置かれ、舞台袖のMIDIコントローラーとリンク接続されています。
スイッチは全部で10あり、
- クリーン
- リズム
- ソロ
- クリーン・ディレイ
- リズム・ディレイ
- ソロ・ディレイ
- -500(Cloudy Heart)
- SFX
- オクターブ
- ミュート
と、以上の各音色の切り替えを行います。
そしてこの横に、Boss/Delay DM-3を発振させるためのスイッチが付きます。
これは布袋氏がリード終わりなどでよく使っています。
ギターアンプヘッドは2台のDivided by 13/FTR 37ヘッドが使用されており、ステージ上には、Divided by 13のキャビネットが置かれます。
このキャビネットは左右でスピーカーの種類が異なるため、両方のスピーカーにそれぞれマイクが立てられています。
Boss Vibrato VB-2
布袋氏の足元には、ほとんどの確率でBoss Vibrato VB-2が置かれています。
VB-2は、ちょっと特殊なエフェクターで、使い方にもクセがあるのですが、布袋寅泰のギター・サウンドを目指している方は、必須のアイテムと言えます。
よく言われるのが、VB-2は、Roland JC-120に内蔵されているヴィブラート・エフェクターを取り出し、コンパクト・エフェクターとして独立させたもの、ということです。
しかし、自分はそうは思えない音だと感じています。
例えば、ファズ等を通した後にこのVB-2を繋げ、全音ストロークなどでコードを弾くと、オルガンのようなレトロ感溢れる音の揺らぎを得ることができます。
深くて速い揺れは、左手の押弦だけでは物理的に表現出来ないものでもあり、美しいビブラートだけでなくエフェクティヴな音も作れるため、幅は広がると思います。
どちらかというと、YAMAHAのエレクトーンの揺らし系の音が近い感じです。
この揺れ方はかなり独特で、他の揺れモノと言われる系統のエフェクターでは出す事が出来ません。
布袋氏は、この音をはかなり気に入っているようです。
しかし、このVB-2、あまり売れずに早々に製造中止となってしまいます。
そもそもヴィブラートは、演奏者のテクニックによる所が大きく、エフェクターに頼らなくても出せるものです。
ですが、ギターの特徴的奏法とも言えるコード・ストロークやアルペジオ、リフなどの複音や開放弦を使った場合のヴィブラートは本当に独特で、モジュレーション系とは異なるサウンドが得られます。
そのため、布袋氏を初めプロのギタリストでも、中古市場を回って複数個所有しているとのことで、コレクターズ・アイテムとも言える状況です。
このような中で、2018年にBossから「技シリーズ」という、過去の自社製品の名機をモディファイしたシリーズが販売されたのですが、このVB-2もVB-2wとして登場しました。
高品質なフル・アナログ回路により、往年のVB-2サウンドを完全に再現しています。
また、カスタム・モードの搭載により独特な揺れを表現することができます。
バイパス・モードでのエフェクトのオン・オフも可能になりました。
VB-2wはVB-2の基本機能に加え、外部エクスプレッション・ペダルで揺れのスピードを調節できるようになり、Uni-Vibeのような効果を出す事も可能です。
最後に
布袋寅泰氏のギター・サウンドメイクはいかがでしたでしょうか。
今の30代以上の日本のギタリストは、直接・間接にかかわらず、少なくとも彼の影響を受けていると言えます。
この世代が10代の頃は、あの幾何学模様(ギタリズム模様)のギターに憧れたキッズは本当に多くいました。
90年代以降の日本のロック・シーンが、「売れる」土壌になっていったのは、やはりBoowyの影響が大きいでしょう。
布袋氏は、その作曲・編曲やギター・リフを一聴すると、幅広くスタンダードなプレイヤー、と思われがちですが、奏法から音作りまで、実は非常に個性的でこだわりがあります。
ぜひじっくりと研究してみてください。
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