ベテランのロック・ミュージシャン、特に大きな音が特徴のミュージシャンで、耳鳴りに悩まされる場合が多い、という話はよく聞きます。
基本的に、人間は大きな音を連続して聴いていると、「キーン」という耳鳴りがするようになり、耳を休めないと、耳の機能が低下する難聴になってしまいます。
正確に音を把握出来なくなるわけですから、自分の声は大きくなり、テレビやオーディオなどの音も大きくしなければ聞こえないなど、周囲に迷惑をかけてしまいます。
ミュージシャンにとって、正確に音を把握出来ないということは、致命的なことです。ベートーヴェンのように難聴でも素晴らしい音楽を作ることは可能かもしれませんが、一般的には、まず不可能でしょう。
では、バンドマンはどのような要因で難聴になりやすくなるのか、また、最近よく見かける音楽用耳栓はどこまで効果あるのか、考察していきたいと思います。
バンドマンは耳鳴りや難聴になりやすい?耳栓が効果的?
どのパートが一番難聴になりやすいのか
これは、常に大きな音が鳴り続ける中にいる、ドラマーがジャンルに無関係に一番難聴になりやすいと思います。
バンドでは通常、ギターとベースが電子楽器、ボーカルとドラムが生楽器ですが、電子楽器は音量調節の幅が広く、生楽器には限界があります。
その中でもドラムは元々の音量が大きいため、耳に与えるダメージは大きくなります。
狭いスタジオで迫力のあるパワー・ドラムと演奏すると、スネアのリム・ショットやシンバルの音がヌケすぎてしまい、他のパートの人まで耳鳴りになってしまう場合もあります。
その次は、やはりギタリストでしょう。
特に現代では、ギターに求められるサウンドのダイナミクスの幅は広く、ジャンルによっては爆音を鳴らしたり、繊細で静かな音まで出さなければなりません。
The Whoのギタリスト、Pete Townshentは、ドラムの隣で常に爆音でギターを弾いていたために、長年難聴に悩まされているとのことです。
また、キーボーディストも注意しなければなりません。
ギタリストやベーシストと違って、キーボードのモニター環境は、アンプの出力が小さくスピーカーも小径ですが、ハイ・ファイ気味になっています。
そのため、ギターやベースのアンプとは異なり、より耳に神経を集中させて聴き込む必要があり、結果としてそれが耳への負担につながってしまい、耳鳴りや難聴になってしまいます。
どのジャンルが一番難聴になりやすいのか
もちろんこれはロック、それも大きな音を特徴とするジャンルです。
基本的にロックは音量が大きいのですが、HR/HM系と思われがちですが、実は各パート間の音量差は理に叶っているものです。
最も難聴になりやすいジャンルは、シューゲイザーやノイズ、轟音などの音響系で、むしろ耳鳴りや難聴にならない方がおかしい位です。
これらはギターの音量が、ドラムサウンドすら包んでしまうくらいに大きく、一見すると破綻したアンサンブル・サウンドになっているのです。
これらのジャンルを理解できない方は、そこまで音を大きくしなくても良いのでは、また明らかにおかしい音量バランスでなぜ演奏するのか、という疑問も湧くでしょう。
逆にここまで大きくしないと出せない周波数帯域の音や、倍音があるのです。それらの音も含めて複雑に絡みあい、また有り得ないような音量バランスで生まれる驚異的な音圧が、あの非現実的な世界観を生み出すのです。
そして、これだけの大きな音は、耳だけでなく、体全体で音を浴びて(これらのジャンルでは「音の洪水」という表現がよく使われます。)感じるもの、と理解されているからです。
実際にこれらのジャンルを代表するバンドのMy Bloody Valentineや、日本のBorisというバンドは、ライブに来るオーディエンスに耳栓を配っています。
とはいえ、小さい音で演奏するような小規模のジャズのコンボ・バンドはドラムの音量が小さいので難聴にはなりにくいです。
しかし、ホーン・セクションが入るようなビッグ・バンドやファンク系はドラムの音量が大きくなるため、やはりドラムの人は難聴になりやすい傾向があります。
耳鳴りや難聴になる、ということは、単に「大きな音を聴き続ける」だけではなく、「耳に負担をかける周波数帯域を聴き続ける」ということも大きな要因です。
そこで耳栓を使う、ということになります。
音楽用の耳栓は実際使用するとどうなのか
自分は、ずっと大きな音量の中で演奏をしていましたが、5、6年前くらいから耳鳴りが起こるようになってきたので、最近は耳栓を使っています。
耳栓を使う前は、耳栓をすることで音の聴こえ方が変わってしまったり、小さい音を聴き分けられないのでは、と不安に思っていました。
音楽用の耳栓は、耳にダメージを与える周波数帯域の音量を減らし、そうでない帯域は音量を少なく削っているのです。
これは、高級なサングラスが目障りな照り返しの光だけを遮って、結果としてよりクリアな視界が確保されるのと理論的には同じで、ただ音を遮断しているのではなく、物理的に耳に負担を与える周波数の帯域を削り、それ以外の音域は通すように設計されているからです。
確かに使い始めた頃は、音のセッティングや自分の演奏については、耳栓なしでやる方が早いですし、違和感が気になりません。
しかし、慣れてしまえば、耳だけではなく胸や体への響きでも音を体感するように意識し、音作りについても変化が出てきたように感じています。
もちろん、自分の演奏の場であるリハーサル・スタジオや、ステージ上だけではありません。
他のライブを見にいく場合でも、耳へのダメージは確実に減ります。また、轟音系インストバンドを立て続けに見ても、その全体的な音像をしっかり把握できます。
ただし、稀にとにかく音を大きくすればとりあえず大丈夫だろう、というような素人(?)PAがやっているライブに行くと、音楽用の耳栓をしていても耳がやられてしまう場合があります。
そんな場面に出会ってしまったら、とりあえずステージの前方からは離れて、後方の、具体的にはミキサー卓の目の前あたりまで逃げてしまいます。
スピーカーの位置にもよりますが、大抵はギターはアンプから出力されているので、ステージから離れることが最も安全です。
自分の耳を守るために、バンドマンならば常に音楽用の耳栓を持ち歩くことをオススメします。
ポケットや財布の中に携帯しておきましょう。
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