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カラオケで歌っていて、どうしてもビブラートやロングトーンがうまくいかない、あるいはカラオケ採点でそれらの評価が低く点数が伸び悩んでいる、とお悩みの方がいらっしゃると聞きます。
そもそもビブラートやロングトーンとは何なのでしょう。
その意味から考え、どのようにしたら出せるようになるのか、そのためのトレーニング法までお話ししていきたいと思います。
カラオケのビブラートとは何?
ビブラートの意味
ビブラート(ヴィブラート:イタリア語でvibrato)とは、震えた、という意味で、音の高さのかすかな揺れのことをいいます。
声楽あるいは多くの楽器演奏で普遍的に行われている技巧です。
弦楽器では、ビブラートは弦の押さえ方や弓の運びなどで行われます。
歌では、ビブラートはブレス、息の流れによって生まれます。
音は物理学的には音波を意味し、空気の振動ですから、理屈をいえばビブラートのない歌や音楽は存在しません。
それでも、ビブラートがない、あるいはビブラートがきつい、という言い方をするのはなぜでしょうか。
それは、音楽的ではない、曲にふさわしい表現につながっていない、という意味で使っている、といえます。
ビブラートがない=声量がない、響きが豊かに聞こえない。
ビブラートがきつい=音が揺れすぎてきれいに聞こえない、音程が変わってしまうほど音が揺れている。
カラオケや音楽一般で使うところのビブラートとは、音のかすかな揺れが音程を損なわず、なおかつ響きや表情が豊かであること、だといえます。
ビブラートの出し方
ノドやあごを使ったビブラートの出し方を紹介している文章を見かけることがありますが、はっきり言って、おすすめしません。
その理由は、本来リラックスするべきノドやあごが力んでしまったり、不安定な音程になってしまうリスクが高くなるからです。
もっとひどい場合、ノドを痛めてしまうことにもつながりかねません。
ノドやあごを使ったやり方は、あくまでも声の震えを体感するための入り口程度に考えておきましょう。
またビブラートを体感する方法として「声を出しながら脇腹を押す」と書いているのも見かけます。
これは一理あって、外部から力を加えることで横隔膜が動き、また息のスピードが変わることによって声の震えが大きくなるからです。
ただし、歌っている最中にいちいちお腹を押すわけにはいきませんし、ビブラートをかけたいと思うたびにお腹を押す人なんていません。
これも声の震えを体感するため、という程度に認識しておいてください。
歌唱技術は、腹式呼吸でコントロールするのが基本です。
ビブラートは意識的につけようとするより、ノドやあご、肩などをリラックスさせながら、安定した息を送り続けることでついてきます。
ブレスを吐く量やスピードをコントロールできれば、必要な時に多くビブラートをつけたりすることもできるようになります。
腹式呼吸について、そしてブレストレーニングの方法は後に書きますので、参考にしてください。
カラオケのロングトーンとは何?
ロングトーンの意味
ロングトーンとは、同じ音の高さで音や声を長く出し続けること、をいいます。
ロングトーンがもっとも多く現れるのはサビ終わりのフレーズなどでしょう。
ヴォカリーズ(歌詞のない、母音で歌うところ)にも多いです。
ただ音を伸ばすだけでなく、バラードなら音を途中で膨らませてから最後は静かに終わる、壮大な曲ならだんだん大きくして最後にビブラートも多めにつけて豊かな響きで歌いきる、など曲に合った表現で歌えると歌い映え、聞き映えが増すでしょう。
ロングトーンは具体的に何秒?
曲の中では、具体的に何秒からがロングトーン、という定義はありません。
ただし、ロングトーンは同じ音で伸ばし続ける、というのが前提です。
カラオケの場合、途中で音がずれてしまったらロングトーンと見なされず、採点の評価は下がってしまうでしょう。
ロングトーンのトレーニングの場合、同じ音で30秒ほど伸ばし続けられるとよいとされています。
もちろん、いきなり30秒できる必要はありません。
ff(フォルティッシモ=ごく大きい音)でできなくても大丈夫です。
ただし、音楽的でない声の出し方で続けて、曲の演奏で使えなければ意味がありません。
まずは10秒、10秒ががクリアできたら20秒、と目標を伸ばしていきましょう。
ロングトーンでも大事なことは、腹式呼吸にもとづくブレスコントロールです。
まずはブレスだけで30秒以上吐き続けられるようにしましょう。
具体的なトレーニングの方法は後に書きますので、ご参照ください。
カラオケのビブラートとロングトーンのコツ
カラオケのロングトーンの評価が低い理由
カラオケの採点でロングトーンの評価が低い場合、次のようなことが考えられます。
・曲の音の長さを理解していない
・同じ音量で伸ばせていない
・音程が一定していない
・不用意にビブラートが入ってしまう
技術的な面以外に見落としがちなのが、必要な音の長さを伸ばしていないことです。
思い込みや歌いグセなどで、伸ばすべき音の長さを間違えていることがあります。
またフレーズとフレーズの間にあるロングトーンは息継ぎの関係などで、自分の都合のよいタイミングで歌うのをやめてしまって、音の長さが途切れてしまったりする可能性があります。
音の長さ不足も採点対象から外れる、と認識しましょう。
同じ音量で伸ばせていない原因は、普段から息を使いすぎてしまい伸ばすべきところで続かなくなってしまう、あるいは曲の後半で疲れてしまい息の支えがなくなってしまった、などが考えられます。
音程については、息の量が足りない、あるいは逆に多すぎて声帯がきちんと閉鎖せず、出るはずの音程で機能していない、他には伸ばしている途中で体に余計な力が入ってしまい音程が変わる、などが挙げられます。
不用意にビブラートがついてしまうのは、力んだり、気持ちが高まって息のスピードが早く上がってしまったり、響きのポイントが変わってしまったりすることが想定されます。
響きのポイントが変わった、とは例えば、頭の方で響きを感じながら歌っていたのに、ロングトーンで声量を増やすために響きを胸の方に落としてしまい、ビブラートが多くついてしまった、といったケースです。
ロングトーンの途中からビブラートをつける方法
カラオケの採点では、ロングトーンは正しい音程で一定秒数以上伸ばすと得点として認識されます。
ロングトーンとして認識、採点されてから、ビブラートを意識的にかけてさらに得点を追加するのが賢いやり方だといえるでしょう。
ビブラートは息の量とスピード、強さで変えることができます。
つまり息の量、スピード、強さを増やせばビブラートは増えることになります。
どれくらい増やせばいいかは、個人の感覚によるところが大きく、練習しながら見つけていくしかありません。
あと、先ほど響きのポイントについて少し触れましたが、頭部の共鳴よりも、胸部の共鳴を使った方がビブラートや響きが強くなりやすいです。
ただし、女性は頭部の共鳴を使うことが多く、男性でも胸部の共鳴を高音域で使いすぎると音程が低くなったりします。
やや難しいことではありますが、自分に合った響きのポイントを見つけ、歌につなげられると声の輝きや表情も豊かになります。
ビブラートとロングトーンのトレーニング法
ビブラートとロングトーンのトレーニング法と書きましたが、まずは発声の根幹である腹式呼吸について説明していきます。
すぐに具体的にやり方を知りたい、とお考えになるかもしれませんが、これから書くことをご理解いただいた方がトレーニングにも向き合いやすいと思いますので、しばしおつきあいください。
腹式呼吸とは、横隔膜が下がる(収縮する)ことで肺に空気が入り、横隔膜が上がる(緩む)ことで息を吐く呼吸法です。
腹式というのは、横隔膜が下がり息を吸ったときにお腹全体が膨らみ、横隔膜が上がり息が吐かれるときにお腹全体がへこんでいくことからきています。
なぜ腹式呼吸が歌うのに適しているかというと、吐く息のコントロールがしやすいからです。
腹式呼吸がうまくできれば、吐く息のコントロールはもちろん、ノドやあご、肩など上半身もリラックスした状態を作りやすいのです。
私たちは通常、寝ているときは腹式呼吸をしています。
まずは腹式呼吸を体感するために仰向けになってみましょう。
立っているときよりも体がリラックスし、腹式呼吸を体感しやすくなります。
仰向けのまま息を吸ったときに、お腹が膨らみますか。
息を吐いたときにお腹がへこみますか。
お腹に手を当てるとお腹の動きが分かりやすく感じられます。
ウェストの辺りだけでなく、下腹も含め、お腹全体が膨らみます。
お腹が膨らんでいるのが感じられたら、脇腹も膨らんでいるか確認しましょう。
今度は両手を脇腹に当て、膨らんでいるのが感じられますか。
横隔膜は心臓と肺の下にある、薄い膜状のドーム型をした筋肉です。
人間の臓器は、心臓と肺が横隔膜の上、その他の臓器が横隔膜の下、という形で隔てられています。
なぜこんなことを話すかというと、横隔膜は背骨や背筋を除く腹腔全体に広がっています。
横隔膜全体をしっかり下げると、腹腔が押され、骨のない部分、つまりお腹の前側だけでなく、肋骨と骨盤の間全体も膨らむのです。
歌うときに腹式呼吸をするうえで、横隔膜全体を使った方がいいことは言うまでもありません。
このお腹の前側、脇腹や背中の方まで全体が膨らむ感覚を、立った状態でも感じられることが、これから話すトレーニングメニューをするにも、今後歌うためにも必要になります。
書かれたことが実感できたら、今度は具体的なトレーニングメニューに移りましょう。
トレーニングメニュー
まずはブレストレーニングから行います。
これから話すブレストレーニングのメニューは私が大学の合唱団で実際にやっていたものや、音楽大学の授業で教わったものです。
ブレストレーニングはすべて “スー” 〔s〕=前歯の間から息を吐く無声音で行います。
肩幅かそれより少し狭いスタンスで立ちます。
どちらかの足を少し前に出して、前後させても構いません。
猫背にならないように気をつけましょう。
お腹の動きを感じるために、片方の手は小指がベルトの辺りに触れるように当て、もう片方の手は脇腹に当てます。
慣れてきたら、両手でお腹を触らなくても構いません。
1.4秒間で吸う→4秒間息を止める→8秒で吐き切る これを繰り返す。
慣れてきたら8秒で吐くのを、12秒、16秒で、さらに8秒で吐くのを、4秒にして吐く。
この時、吐く秒数によって、吐く息の量やスピードが変わることを感じましょう。
吸ったときにはお腹が膨らむ、止めているときは上半身は力まずにお腹の膨らみをキープ、吐く
ときは少しずつお腹がへこんでいく、この感覚をしっかりつかみましょう。
2.スタッカート=1秒ごとに横隔膜を鋭く打つ を続ける。
鋭く打つ感覚が分からない人は、一度咳ばらいをしてみてください(やりすぎはノドを痛めるの
で注意)。
横隔膜が自然に打つ動きをしますので、その感覚を覚えましょう。
お腹の膨らみ、張りはずっと保った状態で行います。
慣れてきたら、1秒で2回(裏拍を感じながら)打つ、1秒で3回(3連符で)打つ、1秒間で4回(16
分音符、16ビートで)打つ、をやってみましょう。
ビートを増やしたとき、それぞれの長さを均一にするとともに、拍の頭を合わせるようにします。
3.2秒でクレッシェンド(だんだん大きく、息の量を多く)して吐き切る、同時に吸う 繰り返す。
息は吐き切ったと同時に入ってくる、という感覚も覚えましょう。
短時間で大きくお腹の動きが変わりますので、このメニューでは大胆に急激に行ってください。
慣れてきたら、4秒で吐き切ってみてください。
4秒の時は始めは少なめに、3秒目以降で強く吐くつもりで、その方が演奏効果が高まります。
4.ロングブレス:〔s〕=前歯の間から吐く無声音で、細い息でできるだけ長く吐く。
お腹の膨らみができるだけ保たれていることをを確認しながら行います。
もちろん少しずつ自然にお腹全体がしぼみますので、必要以上に力まないようにしましょう。
30秒以上が目標です。
できない場合は10秒から、できたら20秒、と目標を伸ばしていきます。
5.メッサ・ディ・ヴォーチェ(クレッシェンド エ ディミヌエンド):4秒かけてだんだん強く吐く→4秒でだんだん弱く吐く、これを繰り返す。
3秒目以降で強く吐き、6秒目までその強さを保って吐き続け、7秒目から弱くしていくと、息のペースや演奏効果の面でもうまくいきます。
ブレストレーニングを行ったら、今度は1.~5.の各バリエーションを声(母音)にして行います。
同じ音で、はじめは自分の出しやすい音の高さで構いません。
慣れてきたら、低い声や高い声でもやってみましょう。
さらに、3.や5.のメニューで、ビブラートがつくかどうか、試してみましょう。
ビブラートがついてきた感覚があったら、普段よく歌う曲や、難しくない曲などで試してみてください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
ビブラートやロングトーンは歌唱技術の中でも大事なものであり、また発声に関する内容は突き詰めればきりがなく、本一冊が書きあがってしまうほど奥深いものです。
本屋さんや楽器店、ネットにも発声に関する本や記事が多くありますが、それでも多くの人が悩みを抱えています。
それは、自分の声は客観的に聞くことができないこと、発声中の体の状態を直接目で見て確かめることができず、感覚に頼る部分が大きいことなどが挙げられます。
プロの歌い手さえ、日々自分の声に向き合い、一生勉強、と話しています。
ネットで記事を探す人は、手軽に悩みを解消したい、という気持ちをお持ちだと思います。
今回お話ししたことを、少し回りくどく感じた方もいらっしゃるかもしれません。
ビブラートやロングトーンといった形でネットで記事を探しても、発声の基本となる考え方や仕組みから丁寧に説明しているものになかなか行き当たらなかったことに、私は不安を感じました。
もし発声の基本的なことを知らずに、書かれていることを中途半端に実践したら、成果が上がらなかったり、逆に調子を崩したりしかねないからです。
発声の基本は腹式呼吸です。
そのことを分かっていただけたら幸いです。
家で音が出せない、忙しくてカラオケに行く時間が持てない、そんな状況でもブレスの練習なら家でも、通勤中や散歩中でもできます。
歌うことは筋肉の運動ですから、1日や2日ですぐにできるようにはなりません。
継続して、変化を実感できたら、それをさらに高めていきましょう。
カラオケがより楽しくなり、あなたの生活に彩りが増えることを願っています。
ありがとうございました。