今や一般的にも流通するようになった、日本発のギター・ブランドのフジゲンは、正式名称をフジゲン株式会社と言います。
1960年代からFenderやGibsonと言った世界的な有名ブランドのコピー・モデルの製造から企業としてのキャリアをスタートさせました。
その中でも、神田商会、山野楽器との共同出資で設立したFender Japanは、単に本家Fenderの日本版というだけでなく、USA製を超えるクオリティとも評されており、現代でも「ジャパン・ヴィンテージ」として広く知られています。
しかし、2000年代に入ってからは、それまでの海外ブランドのコピーによる技術力を活かした、自社ブランドの製作・販売にシフトしました。
そして現在では、オンラインによるセミ・オーダーの製作受注等も請け負うなど、さらに事業を拡大しています。
フジゲン製のLes Paulタイプのコピー・モデル
現在、世界的にも「ジャパン・ヴィンテージ」と評価されている、1970年代の日本製のコピー・モデルがあります。
その中でも、特にフジゲンが製作したギターの人気は高いです。
フジゲンが製作したGrecoのLes Paulタイプ(EG360)は、当時グループ・サウンズのギタリストとして活動していた、故成毛滋氏が注文、使用しました。
成毛氏が最初にGrecoを使ったのは1970年頃で、フジゲンが製作したモデルでした。
彼の手はかなり小さく指も短かったので、アメリカのFenderやGibsonのネックは太すぎてかなり弾きにく、日本製のギターであれば弾けるフレーズでも、FenderやGibsonのギターでは弾かなかったそうです。
その話を神田商会(Grecoは神田商会のギター・ブランドです)に相談したところ、成毛氏のオーダーに沿ったLes Paulタイプを製作して、見事彼の手にフィットしたそうです。
成毛氏のオーダーは、可能な限りの薄いネック、そしてフレットも狭くて低いもの、ネック・ジョイントはセット・ネックではなくボルト・オンというものでした。
その音を聴いた人達(成毛氏本人含め)はEG360の方が、Gibsonより音が良いと評判になったそうです。
しかし、弾きやすいギターを弾けば、当然出る音も良くなって当たり前なのではないでしょうか?
一方、Gibsonは世界最高レベルの技術力を持ち、使われる材も高品質のものを選択しています。
「故成毛滋氏は、GibsonのLes PaulよりGrecoのLes Paulの方が音が良かった」と感じた事は間違いないと思います。
流石に「当時のGrecoが、Gibsonより音が良かった」というのはいくら何でも話を盛りすぎではないかなと思います。
そして、当時のGibsonは音が全体的によりトレブリーな傾向があり、1960年代のLes Paulの音を目指していたGrecoのLes Paulタイプについて、当時の人達が「良い音」と感じるサウンド・キャラクタ-だったからという事も関係しているかもしれません。
当時のコピー・モデルとしては、価格を考えると大変クオリティが高かったのは間違いありませんが、個人的にはこの時代のフジゲンが製作したLes Paulタイプは、やや過大評価を受けているように感じます。
しかし、この評判がかなり多く知れ渡り、Grecoの売上が突然上がったそうです。
そこでGrecoは成毛氏と専属契約を結ぼうとしましたが、それは固辞されたものの、彼のより細かいオーダー・ギターを製作する事となり、フジゲンの当時の社長や工場長と打ち合わせを重ねて、その仕様で製作・販売されていくことになりました。
このギターは、成毛氏による解説ソノシート(安価なビニールによるレコード)付きで売ったところ、さらに売れに売れました。
それまでGrecoの国内のギター・シェアが1割位だったのが、約7割まで上がったそうです。
こういったエピソードも当時のGreco、つまりフジゲンのギターが、現在までやや過大評価される背景にもなっているのではないでしょうか?
しかし、その後Grecoはより本物思考なLes Paulタイプを製作するようになり、成毛氏とは袂を分かっていくことになります。
現在のフジゲンのギター
現在のフジゲンは、オリジナル・ブランドの「FUJIGEN」と「FGN」でギターの製造・販売を行っています。
その中でも、Expert FLAMEという機種が、Les Paulタイプに該当すると思われます。
Expert FLAMEは、フジゲンの独自技術「サークル・フレッティング・システム(CFS)」が採用されています。
この技術は、一部のモデルを除くほとんどのフジゲン・ギターで使われている技術になります。
また、ネックをボディにより深くセットさせる「ロー・セッティング・セット・アップ」、そしてハイ・ポジションがより弾きやすくなるための、「スムーズ・ヒール・ネック・ジョイント」も採用されています。
さらにフジゲンの柱になっている「Neo Classic Series」では、Les Paulタイプに加えて、Fender系ではStratocasterタイプ、Telecasterタイプなどのトラディショナルなモデルもラインナップされています。
また、トップ・ラッカー・フィニッシュや、Seymour Duncanのピックアップが搭載されているモデルもあり、ヴィンテージ・ギターによくあるコモり、丸みのある音ではなく、明瞭でクリアなサウンドと豊かな倍音が特徴になっています。
・サークル・フレッティング・システム(CFS)
フジゲンの技術である、サークル・フレッティング・システムとは、1弦と6弦の延長線上に交差する点を中心として、フレット、ナットをその同心円上の弧の形にしているものです。
これによって、弦とフレットが直角に交差することになり、音の立ち上がりやクリアさが良くなります。
またネックは、ナット側では細く、ボディに近づくにつれて幅が広くなっていきますので、最終フレット近くまで来ると、中心に近い弦と他の弦と同じ位置ではオクターブ・ピッチが合わなくなってきます。
それを解消したのがサークル・フレッティング・システムになります。
ボディはGibson Les Paulに比べるとやや小ぶりな大きさですが、非常に良く鳴るギターという印象です。
ある程度の高品質のギターであれば当然ですが、どのポジションでも同じような弾きやすさを持っていると言えます。
ネックのグリップも良く、プレイアビリティの高さは、1970年代のフジゲンのギターとは比べ物にならない位素晴らしくなっているのではないでしょうか。
出音はサークル・フレッティング・システムの影響もあるようで、かなりクリアです。
特に低音のスッキリしつつ明確に響く感じは、オリジナルのGibson Les Paulのものとは大きく違います。
また、エフェクターのりも良く、現代の音楽にマッチした音になっています。
最良の木材を世界から買い付け、それぞれの特性に合わせた独自の乾燥技術により、表面から内部まで含水率を表面、内部ともに6~7%に保たれています。
フジゲン・ギターを新品で購入する場合は20万超えますが、個人的には、現在のGibsonと同価格のギターよりも、ワンランク上の作りになっているように感じます。
もし、Gibsonの音ではなくフジゲンの音が好みであれば、かなりお得なギターになると思います。
「FenderやGibsonの代替ギター」という考えは捨てて、「フジゲン・ギターの特徴」を考慮して十分選べるのではないでしょうか。
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