英国のパブロック・バンドとして、現在でもコアなファンがいるDr. Feelgoodは、パンク前夜の1975年にデビューしました。
その中心的存在で、今なおガレージロック、リズム・ギタリストとしてシーンに君臨するWilko Johnsonについて、簡単に紹介します。
Wilko Johnson/Dr. Feelgoodのギターのプレイ・スタイル
Wilko Johnsonの経歴
・Dr. Feelgood時代
1947年Essexで生まれたWilkoは、1971年にDr. Feelgoodに参加し、1975年に「Down By The Jetty」というアルバムでメジャー・デビューします。
オールドなブルースやロックンロールを下敷きとしながら、ザクザクと硬質なリズム・ギターを刻む音楽性は、後のパンク・ムーヴメントを先取りするようでした。
Wilkoのカッティング・スタイルも驚きですが、彼がピックを使わず指で弾いている、と知って、二度驚きます。
そしてギターからアンプへ伸びるのはカール・コード、無表情で目を剥き出すような、ある種の異様なパフォーマンスも相まって、人気に火がつきます。
3rdアルバム「Stupidity(当時の邦題は「殺人病棟」)」で全英1位を獲得しますが、Wilkoは音楽性・方向性の違いから、バンドを脱退してしまいます。
・その後のWilko Johnson
Dr. Feelgood脱退後のWilkoは、ソロ活動やサポート・ギタリストなどの活動を続けます。
Ian Duryの元祖・パブロックのThe Blockheadsに参加したりと、一ギタリストとしての面が見られます。
そして1985年に結成されたThe Wilko Johnson Band、幾度とメンバをチェンジしながらも、マイペースに現在で活動を続けています。
日本にも何度も来日しています。日本でもパブ・ロック、ビート・ロックは非常に根強い人気があります。
シーナ&ロケッツ、The Roosters、Thee Michelle Gun Elephantなど、彼のプレイに影響を受け、また来日時には共演を果たすなど、深い繋がりがあります。
Wilko Johnsonのプレイ・スタイル
・サウンド
Wilkoはインタビュー等で度々、影響を受けたギタリストとしてJohnny Kid & The PiratesのMick Greenを挙げています。
Mick Greenは、元祖UKビートとも言える存在で、The BeatlesやThe Rolling Stonesより先にデビューし、やはりパブを中心に活動してきたギタリストです。
「Casting My Spell」という楽曲のギター・サウンドは、初期Dr. FeelgoodのWilkoを思わせ(オリジナル・サウンドはMick Greenですが)、いかにWilkoにとってMick Greenの存在が大きかったかが伺えます。
・ピッキング
Wilko Johnsonと言えば、マシンガン・カッティングと評される高速リズム・プレイです。
これはコード・トーンを実音、休符、ブラッシングを絡ませながら、高速でリズミックに弾くテクニックです。
同じくマシンガン・カッティングと言われた、The Michelle Gun Elephantのアベフトシ氏のプレイを聴いていただければ、一聴瞭然でしょう。
アベフトシ氏も鬼気迫るプレイでしたが、Wilkoはなんとピックを使わずに指で弾き倒してしまいます。
その際には常に指を切ってしまい、血が飛ぶステージになるそうです。
元々彼は左利きで、上手く右手でピックを握れないから、というのが理由らしいです。
指弾きで太いサウンドを弾き出しているため、リードを取る際も、バッキングのような音使いでリズム・アプローチが多く、これがWilkoのプレイを堪能できる場面でもあります。
Wilko Johnsonの使用機材
・ギター
Wilkoと言えば、赤いピックガードを取り付けたFender Telecasterです。
というか、Mick Green、Joe Strummer、Steve Cropper、そしてアベフトシ氏と、精悍・ストイックなリズム・ギタリストはTelecaster、というイメージが定着しています。
Fenderのオリジナルでは、Telecasterに赤いピックガードはありません。
これは前述の通り、彼はギターを弾くと出血することが多く、その血をお客さんが怖がってしまうため、血が目立たないように赤いピックガードに交換したそうです。
怖いような優しいような、Wilkoの人柄とスタイルを表しているエピソードですね。
・アンプ
アンプはCornellの20Wモデルを使用しているそうです。
真空管で、どちらかと言えばオールドなアンプ、「知る人ぞ知るアンプ」というメーカーです。
海外ツアーなどで自前のアンプを用意できない場合は、現地のFender Twin Reverbを使用する、とのことです。
・エフェクター
Wilkoはエフェクターを一切使用しません、さらに言えば、チューナーさえ付けていません。
良く言われる「アンプとギターとケーブルのみ」、本当にこれだけでステージに立っているのです(おそらくチューニングは楽屋等で合わせてくるのでしょう)。
フジロックのグリーン・ステージ(フジロックで最も大きいステージ。メイン・アクトが演奏する場所)でも、アンプ–ケーブル–ギターだけで、おそらくグリーン・ステージでこのセッティングでプレイしたギタリストは、彼くらいかもしれません。
ちなみにギター・ケーブルは必ずカール・コードのものを使用しています。
個人的には、Wilkoのブルースやオールデイズへの変わらぬ愛着を感じます。
Wilko自身も日本のプレイヤーと演奏するのは楽しいようで、頻繁に来日してライブハウスに出演しています。
彼のライヴは、本当にカッコ良くて、自分もカッティング・ギターを真似てみたい気持ちにさせてくれますので、ぜひライヴを体験してみてください。
Jack White/The White Stripesのギターのプレイ・スタイル
The White Stripes時代のJack Whiteのギタースタイル
Jack Whiteは、1997年にMeg Whiteと結成した2ピース・バンド、The White Stripesのギタリストです。
ガレージ・リヴァイバルと評されたThe White Stripesは、The Strokesと並んで、2000年代の重要バンドと位置付けられています。
The White Stripes後のJack Whiteは、いくつかのバンドを経て、現在はソロ・アーティストとして活動しています。
彼のギター・スタイルは、単純にガレージ系、と言い切れないところに魅力があります。
ブルージーかつハードで、シンプルなセッティングと、一見シンプルな音楽を志向しているように思われますが、時折顔を出す現代性から、そのセンスは同世代のギタリストとは一線を画している、と言えます。
通販用ギター「Airline」
The White StripesのJack Whiteと言えば、赤いボディに白いピックガードのビザール・ギターを連想する方は多いと思います。
彼が使用しているビザール・ギターは、アメリカのMontgomery Ward社という、古くから通信販売を中心に事業を行っている商社が出していたギター・ブランド「Airline」というギターです。
Montgomery Ward社は2001年に消滅してしまい、大変資料が少ないのですが、Jack Whiteが使用していた機種は、Airline Res-O-Glas Jetsonsという名称らしいです。
Jack Whiteは有名どころからビザールまで、多くのギターをコレクションしているらしいので、このようなギターも彼がどこからか発掘したのかもしれません。
独特のルックスを持つAirlineですが、最大の特徴は、ボディが樹脂製であるという点です。
おそらく、通販用のギターですので、そのような仕様になっているだと想像されますが、これがまた独特のトーン(良くも悪くも)を生み出します。
余談ですが、このような、ある種「猥雑でチープ」な作りのギターが、ビザールの魅力だったりします。
Jack WhiteがAirlineを使用した理由
このAirlineは、前述のとおり通販で販売していたようなギターですので、楽器としての作りはかなりお粗末なもの、と言わざるを得ないでしょう。
しかし、それが独特のルックスと音、個性なのですが、Jack Whiteがこのギターを選択した理由はそれだけでなく、非常に弾きにくいギター、という点も大きいように思われます。
The White Stripes時代の彼は、弾きにくいギターを力で捻じ伏せるようなプレイがロックだ、ということを語っています。
The White Stripesは、ギターとドラムのみの編成で、音楽性もシンプルかつハード・ブルージーという、プリミティヴな粗さが魅力のバンドでした。
おそらく「The White Stripesには、弾きにくいギターが似合う」と直感的に判断したのかもしれません。
このAirline、Jack Whiteで一躍有名になったということで、中古市場で安く出回っていたものが、値段が高騰してしまったそうです。
ちなみに、彼が購入した時はわずか200ドルだったそうです。
オープン・チューニングの多用
彼のバックボーンにあるブルースの影響なのか、2ピース・バンドという制約からの必要性なのかは分かりませんが、The White Stripes時代は、オープン・チューニングを多用していました。
オープン・チューニングとは、ギターの開放弦を全て鳴らした時に、メジャー・コード(大抵は3和音)になるように行うチューニングです。
このチューニングがブルースで使われる理由は単純で、ずばりボトル・ネック奏法のためです。
また、開放弦が多く使われるので、その独特の響きを得られ、また音に厚みを持たすことも可能になります。
Jack Whiteは、オープンEやオープンA、その他DADGADと呼ばれる非常に特殊なオープン・チューニングも使っていたようです。
このDADGAD、Jimmy Page以外の使用者は、彼くらいかもしれませんね。
主なエフェクター
The White Stripes時代に使われていた主なエフェクターは、以下の通りです。
- electro-harmonix Big Muff Pi
- electro-harmonix POG
- Digitech Whammy
The White Stripesのサウンドを出したい方は、これらのエフェクトはマスト・アイテムと言えるでしょう。
electro-harmonixのファズやオクターヴァーなどは、いかにもJack Whiteらしいような選択です。
面白いのは、通称「赤ワーミー」でしょうか。
プリミティヴ・ロックにこのようなエフェクターを使うというのは、やはり彼の個性だと感じます。
そして上記以外ではelectro-harmonixのHoly Grailや、トレモロなども使っていたようです。
Ira Kaplan/Yo La Tengoのギターのプレイ・スタイル
Ira Kaplan/Yo La Tengoのギター・スタイルについて
Yo La Tengoの中心人物でありギタリスト、Ira Kaplanのプレイは、同世代と比べても特異で先見性がありました。
ポップな歌なのに、非常にノイジーでハードなギター、それでも楽曲として成立させてしまうのが、彼のギターの特徴と言えます。
今回はIra Kaplanのギターについて書いていきたいと思います。
Yo La Tengoについて
Yo La Tengoという非英語の聞き慣れない響きから、南米辺りのサルサやレゲエのバンドを想像してしまいますが、1984年にアメリカで結成されたオルタナ・バンドです。
Ira KaplanとGeorgia Hubleyの他にベーシストがいた3人体制だったようですが、1990年にJames McNewが加入し、それからは現在まで同じメンバーで活動しています。
一応、担当楽器は決まっており、ギター/ヴォーカルがIra Kaplan、ドラム/ヴォーカルがGeorgia、ベースがJames McNewとなっていますが、全員で鍵盤を弾いたり、パーカッションを叩いたり、そして打ち込みから楽器交代まで、メンバーが何でもやるバンドです。
アルバム等のレコーディングでは、巧みなスタジオ・ワークで美しいサウンドを製作していますが、ライブでは破壊的な激しいパフォーマンスを見せるなど、ある意味、理想(?)のロック・バンドと言えます。
Ira Kaplanのギタープレイについて
Ira Kaplanは、アコースティック・ギターやウクレレ、スティール・ギター、そして鍵盤楽器なども演奏できるマルチ・プレイヤーです(他のメンバーもそうですが)。
彼にはいわゆる「ギタリストらしさ」というよりも、トータル的なミュージシャンという印象が強いかもしれませんが、彼のギター・プレイの特徴は、フィードバックにあると言えます。
特に、ライブの最後に演奏される事が多い「Pass The Hatchet, I Think I’m Goodkind」では、ベースとドラムは一定のリズムを刻んでいき、その上でIra Kaplanがノイズ・ギターを10分以上弾きまくるのですが、これが彼の真骨頂と言えるギターで、ノイズを「聴かせる」プレイです。
他の楽曲でも、このフィードバック・ノイズをバッキングに使いながら、普通にヴォーカルをとっています。
激しいノイズとポップな歌、後のJesus & Mary Chainなどのネオ・サイケデリックやシューゲイザーを思わせるような楽曲構成は、時代的にも早過ぎたのかもしれませんね。
Ira Kaplanの使用機材について
Ira Kaplanはここまで書いてきたギタリストのように、「彼と言えばこのギター」のようなイメージはありませんが、主に使っている機材を紹介します。
ギターはFender JazzmasterかJaguar、Stratocasterなど、アンプもFender Super ReverbとVibro-Luxを使っており、Fender系で統一されています。
シングルコイルによる、繊細かつ凶暴なサウンドを生み出す秘密が何となく分かるようですね。
もちろん、他にも数多くのギターを所有しているようです。
彼のサウンドのもう一つの秘密と言えるエフェクターは、Boss OD-2、CS-3、GE-2そしてチューナーと、こちらもBoss製品が多くセッティングされています。
その他に使用されているエフェクターは、Rat、Line6 DL4、MM4等になります。
Ricky Wilson/The B-52'sのギターのプレイ・スタイル
The B-52’s/Ricky Wilsonのギター・プレイ・スタイルについて。
1976年に結成され、今なお活動を続けているThe B-52’s。
日本ではいまいち有名でないかもしれませんが、ニュー・ウェイヴの本場になったイギリスやアメリカでは、ポップ・ロックとしてかなり売れていたバンドです。
日本でいまいち、とは書きましたが、メンバーは、日本で佐久間正英氏やJudy And MaryのYukiとNiNAというユニットを結成したりもしています。
そんなThe B-52’sのオリジナル・メンバーでギタリストであったRicky Wilsonは、独特のチューニングで、初期の彼らのサウンドを決定づけたキーマンでしたが、若くして亡くなってしまいます。
彼の死から約2年間、The B-52’sが活動停止していたことからも、彼の存在が大きかったことを伺わせます。
The B-52’s
結成されたばかりの、初期The B-52’sのメンバー編成は、以下のとおりでした。
- Fred Schneider:Vocal
- Ricky Wilson:Guitar
- Kate Pierson:Keyboard
- Cindy Wilson:Chorus
- Keith Strickland:Drums
ご覧のとおり、メンバーにはベーシストがいないのです。
通常のロック・バンドでは、ベースとドラムのコンビネーションが、そのバンドの個性となるリズムを生み出します。
ベーシストがいない理由は、Ricky Wilsonのプレイ・スタイルが大きく関わっています。
ギター・スタイル
・唯一無二のチューニング
Ricky Wilsonのチューニングは、楽曲によって違いはありますが、デビュー曲にして彼らの代表曲「Rock Lobster」でのチューニングを見てみましょう。
- 6弦 C
- 5弦 F
- 4弦 外す
- 3弦 外す
- 2弦 F
- 1弦 F
6弦をDに落とすというのは良くあるチューニングですが、Cまで下げると、かなり弦は弛緩していると思われます。
個性的なのが4弦と3弦を外してしまっている点です。
そして1弦は2弦用の弦を張っており、通常の1弦のE音より1オクターヴ低くチューニングして半音上げてF音にしています。
これにより、1本のギターで低音部と高音部がはっきり分かれ、ベース・パートもRickyがこなせるためにベーシストが不在だったのです。
このチューニングでは、一見すると、この楽曲専用で、ギターの特徴とも言える中音域は使わず、低音域と高音域をはっきりと使い分けているように見えます。
彼は他にも、楽曲によって4弦に6弦の1オクターヴ上の弦を張っていたり、ベースをプレイしたりと、初期The B-52’sのサウンドの核と言えるでしょう。
・きっかけ
彼がどうしてこのようなスタイルになったのかといと、Ricky Wilsonは、3弦を切ってしまうことが多かったらしく、そのうち交換が面倒になってそのまま弾き続けていました。
弾き続けているうちに、3弦と4弦がなくても問題ない、むしろ低音部と高音部がはっきり分かれるので、楽曲によっては使える、と考えたようです。
また、その他の変則チューニングについては、Joni Mitchellの影響があるとのメンバーの証言もあるようですが、個人的には、音楽的関連性はあまりなく、アイディアを拝借したと言った具合ではないでしょうか。
・使用ギター
使用しているギターは、特定の機種を長く使いこなしている、という訳ではなく、数多く使用しているので、その全ては分かりません。
現在も残されている写真や動画などで確認すると、ビザール系のギターを好んで使っていたように思えます。
その死
1985年、初期の成功を手に、これからどんな音楽を展開していくのか、期待されていた矢先にRicky Wilsonは病死してしまいます。
そしてRicky Wilsonの仕事、約2年間の活動停止を経て、The B-52’sは当時の流行スタイルであったエレポップ路線に入り、世界的な成功を収めます。
ロック・リスナーとして思うことは、もしRickyが生きていたら、どのようなギタリストになっていたのか、The B-52’sはもしかしたらSonic Youthのようなオルタナ・バンドとして、シーンにさらなる影響を与えていたかもしれません。
前述で紹介したとおり、チューニングの発想やビザール・ギターを多く使用するなどは、オルタナ系のD.I.Y.精神そのものです。
早過ぎる死が非常に悔やまれます。
Robby Krieger/The Doorsのギターのプレイ・スタイル
Robby Kriegerとそのギター・スタイル
Robby Kriegerは、カリスマ・ヴォーカリストのJim Morrisonを擁した伝説的バンド、The Doorsのギタリストです。
The Doorsのメンバーを一度おさらいしてみます。
- Jim Morrison:Vocal
- Ray Manzarek:Keyboard
- Robby Krieger:Guitar
- John Densmore:Drums
前述のThe B-52’sと同様、このバンドにもベーシストがいません(理由は異なりますが)。
The Doorsは、サイケデリックで文学的、そして即興演奏と、当時流行していたブルース・ロックとは明らかに一線を引いていました。
また、Robby Kriegerのギター・プレイからも、黒っぽさはそれほど感じられず、楽曲全体の中できちっと仕事をしているという印象です。
彼自身は、Jim Morrisonの存在もあってか、さほど目立つ存在ではなかったようですが、The Doorsのシングル12曲中8曲が彼の作曲によるもので、Ray Manzarekと並ぶThe Doorsサウンドの核だったことが分かります。
アメリカの音楽雑誌「Rolling Stoneの選ぶ歴史上最も偉大な100人のギタリスト」において、2011年で第76位と現代における彼の評価は、非常に高いものです。
これは現代のロックが、単にギター・ヒーローを求めるだけでなく、音楽を総合的に判断する結果、彼のようなギター・プレイが評価されるようになったのだと思います。
ギター・スタイル
Robby Kriegerは、学生時代にフラメンコ・ギターから入ったようです。
その後にブルースやジャズに傾倒していったようで、出自がフラメンコ、そしてジャズと行ったためか、ピックを使わずに指メインでギターを弾くようになります。
同世代のギタリストの多くは、ブルージーなフレーズを弾いていたのに対し、彼は浮遊感や広がり、そして不可思議な音を持っています。
The Doorsの楽曲中でもコード・ストロークはあまりなく、単音プレイが中心の構成になっており、リード・プレイではハンマリングやプリングを多用しています。
主な使用ギターはGibson SG、薄くリヴァーブをかけており、彼独特の音色を作り出しています。
ちなみに、2011年にはGibsonからRobby Kriegerのシグネイチャー・モデルのSGが発売されています。
The Doors時代のギタープレイ
ベース・レスのバンド編成なので、低音部分も弾くのかと思いきや、実はそのようなプレイはあまり聴かれません。
The Doorsのサウンドの特徴はサイケデリックなオルガン、Ray Manzarekがベースとバッキングを担当し、その上にRobby Kriegerの浮遊感あるギターが乗ってきます。
この構成がJim Morrisonの詩と上手く融合し、The Doorsの世界観を作り上げていました。
リード・プレイでも、どこかとりとめのないようなフレージングにも聴こえるのですが、エキゾティックな音使いや「泥臭さ」のないスマートなフレーズなど、この時代では非常にクールなプレーです。
The Doors後のRobby Krieger
1971年のJim Morrisonの死去で、実質The Doorsは終わった、と考えても間違いではないかもしれません。
残された3人でThe Doorsを続けようとしましたが、Jim Morrisonの不在は大きく(一時期、The StoogesのIggy Popを迎えようとしたこともあったようですが)、バンドは活動を停止し、60年代を体現したバンドがシーンを去ることになります。
その後の彼は、いくかのバンドでプレイし、元CultのIan Astburyを新ヴォーカルに据えた新生The Doorsを結成します。
後にバンド名を「Manzarek, Krieger」と改名して活動を続けていましたが、2014年に盟友のRay Manzarekが死去したため、現在は活動停止しています。
近年のKriegerは、Youtubeでもそのプレイを見ることが出来ますが、往年のプレイはまだまだ健在で、フラメンコ・スタイルを思わせる5本指全てで弦を弾いています。
このまま元気に活動を続けていただき、The Doorsファンの多い日本でも是非ライブをやっていただきたいです。
Tom Morello/Rage Against The Machineのギターのプレイ・スタイル
Tom Morelloとそのギター奏法や使用エフェクター・機材について
Rage Against the Machineは、「HipHopとロック=Led ZeppelinとPublic Enemyの融合」と評されるサウンドに、政治的メッセージのリリックという、非常にラディカルなバンドです。
1991年に同名アルバム「Rage Against the Machine」を発表、ヘヴィで引きずるようなリズムに、ブラッシングやスイッチングを駆使したギター・プレイ、そして抗議活動の焼身自殺を捉えた衝撃的ジャケットで、一躍シーンに登場します。
・ギタリスト・Tom Morello
Tom Morelloの特色は、ギターという楽器で、ギターとは思えないサウンドを出すことです。
「Bulls On Parade」のギター・ソロでは、まるでDJのスクラッチ・ノイズのような音を出し、また、「Know Your Enemy」のイントロでは、スイッチング奏法を用いてサンプリングのような音を出しています。
スイッチング奏法で、このようなHipHopサウンドを作り出すのは、技術的にはそんなに難しいことではありませんが、このような発想は、特にロック・サイドのギタリストからはまず思いつかないでしょう。
事実、彼自身もインタビューで、「自分のギター・スタイルであれば、Eric Claptonのような偉大なギタリストと比較される心配もない」と答えています。
ギターを使った音へのアプローチが、やはりオルタナの精神に基づいています。
しかし、技術力が全くないかというとそうでもなく、彼のソロ・プロジェクト「The Nightwatchman」では主にクラシック・ギターを使用し、フォーキーなプレイを聴かせてくれています。
Arm The Homeless
Tom Morelloは、ライブでも頻繁にギターを持ち替えていますが、彼が使用するギターで最も有名なものが、ボディに「Arm The Homeless」と描かれたものです。
このギターは、Performanceというアメリカのギター・メーカーのものですが、音があまりに酷かったため、改造しまくったらしいです。
ネックはKramerに差し替え、ピックアップ・セレクターはキル・スイッチ(音を変えるスイッチ)に変更し、コントロール・ノブは2ヴォリューム・1トーン、そしてピックアップも全て交換されているようです。
ここまで改造が施されると、ほぼ原型はボディのみということになりそうですが、やはりギターへの考え方、乱暴に言ってしまうと「発音させる機材」という捉え方だからでしょう。
この「Arm The Homeless」以外にも、多くのギターを所有していますが、どのギターも必ずキル・スイッチが増設されています。
これは彼のプレイの特徴の一つであるスイッチング奏法を、どんなギターでも行えるようにするためでしょう。
使用エフェクター
彼は非常に多彩でトリッキーなプレイヤーであるため、多くの人が彼のギター・プログラミングには興味があったと思います。
実は、彼が使用するエフェクターの種類はそれほど多くありません。
- Jim Dunlop Crybaby
- Boss TR-2 Tremolo(トレモロ)
- Digitech WH-1 Whammy(ワーミー)
- Boss DD-2 Delay(ディレイ)
- DOD FX 40B(イコライザ- ブースターとして使用)
- MXR Phase 90(フェイザー)
以上のエフェクトが基本型のようです。
このシステムだけで、あのサウンドを出しているかというと驚きですが、良く言われるように、ギターは発想力と表現力、ということだと思います。
マルチ・エフェクターが一台あれば、上記のエフェクターを個別に揃えなくても近い音が作れると思いますが、シンプルなセッティングに立ち戻って、Tom Morelloのように優れたアイディアとギターの研究が必要です。
Dick Daleのギターのプレイ・スタイル
Dick Daleとそのギター・スタイルやエフェクターについて
最近は、ビート系のガレージ・バンドとともに、初期の荒々しいサーフ・ミュージックっぽさを持ったバンドが多く出てきているようです。
サーフ・ミュージック、とりわけギター・インストと言えば、日本ではThe Venturesが有名で、グループ・サウンズのルーツのように語られています。
しかし、サーフ・ガレージとして本国アメリカでは、The Beach Boys、そしてDick Daleの影響が非常に大きいと言えます。
Dick Daleの経歴
Dick Daleは81歳で亡くなるまで活動しており、生涯一ミュージシャンとして継続して演奏していました。
彼は1959年に「Dick Dale & His Del-Tones」としてデビューし、1962年発表の「Misirlou」が大ヒットして一気に有名になります。
時代はElvis Presley、Eddie Cochranなどロックンロール草創期から、サーフ・ミュージック、60年代への準備期間という過渡期でした。
その後は、病気もあってか、1970年代から80年代まで、主だった活動はしていませんでした。
彼の転機となったのは、1987年の映画「Back To The Beach」で当時若手のStevie Ray Vaughanと共演を果たし、1993年にアルバム「Tribal Thunder」で本格的に復活します。
そして1994年のQuentin Tarantino監督映画「Pulp Fiction」では「Misirlou」がサンプリングされて使用されるなど、ヒップホップの手法で再評価されています。
Dick DaleといえばMisirlou
Dick DaleといえばMisirlou、というよりもサーフ・ミュージックで最も重要な楽曲はMisirlouと断言しても良いくらいです。
この楽曲は、元々中東の民族音楽であり、最初にレコーディングされたのが1919年と言われており、メロディこそ同じですが、サーフ・ミュージックとは異なるものです。
このオリエンタルなメロディに、サーフ・ミュージックのギター・サウンドが乗った、攻撃的かつ不思議な引力のあるアレンジになっています。
そのインパクトは強烈で、そのままDick Daleの代表曲となり、しいてはサーフ・ミュージックの代表曲にまでなります。
余談ですが、日本のサーフ・ガレージの代表的バンド、サーフコースターズの20周年ライブの際、アンコールの後に中シゲヲが「この楽曲のおかげで20年やってこれました」とMCした後に演奏したのがこのMisirlouでした。
Dick Daleのギターの特徴
Dick Daleは左利きで、左利き用のギターを使用していますが、何と弦は反対に張られています。
反対に張られているとはどういうことかというと、通常6弦が張られている位置に1弦、そのまま2弦、3弦と張られているのです。
おそらくこれが彼独特のヒステリックで、おそらく本人もそこまで意図していないスクラッチ・ノイズが出る大きな要因と思われます。
使用ギターは、Fender Custom Shop Stratocasterで、彼のシグネイチャー・モデルです。以下その特徴を挙げてみます。
- ボディがゴールド・フィニッシュ
- ピックガードに、ピックが数枚収納できるピック入れが付いている
- リア・ピックアップが、通常のモデルとは逆方向にスラントしている(1弦側の方がネックに近い。おそらく弦の張り方が通常と逆のため)。
また、弦が太いのも彼のギターの特徴で、1弦から順に0.16、0.18、0.20、0.38、0.48、0.58のものを使用しています。
これがあの太くて厚みのあるサウンドの要因かもしれません。
Dick Daleのエフェクター
彼のギター・サウンドを味付けしている最も重要なものが、スプリング・リヴァーブでしょう。
スプリング・リヴァーブは、文字どおりスプリングの稼働によりリヴァーブ効果を出すもので、昔はストンプ・タイプのリヴァーブはなく、アンプに内蔵されていました。
Dick Daleに限らず、この時代のギタリストは、このスプリング・リヴァーブを使用する時は、アンプを蹴飛ばしたりして、スプリングだけ鳴らすノイズ音を出したりしていました。
なかなか荒っぽい使い方ですが、同時代のロカビリーなども、このスプリング・リヴァーブとアナログなノイズが特徴でした。
ちなみにelectro-harmonixのリヴァーブ、Holy Grailは、「Dick Daleでさえもスプリング・リヴァーブと区別出来なかった」というキャッチ・フレーズで売り出されたそうです。
最も適したアンプは、Fender Twin Reverbだと思いますが、アンプにスプリング・リヴァーブがなく、サーフ・ガレージ・サウンドを出したい場合は、このエフェクターを試してみてください。