リズム、バッキング録りが終わり、ボーカル録音まで終了。
2ミックス前にボーカルとオケを重ねてみると、ボーカルが物足りない…。
こんな経験をしたことはないでしょうか?
これはボーカルの録音データが、オケの厚さに負けてしまっているためです。
これを解消するための録音・ミキシングのテクニックの一つに、「ダブリング」というものがあります。
ダブリングはボーカルに限らず、コーラスやギターなどでも使われる方法です。
今回は、ボーカルにダブリングを用いる方法について紹介していきます。
ボーカルを重ねるダブリングの効果について。
ダブリングとは?
まず、ダブリングについて説明します。「ダブリング」とは、同様の録音データを2回(以上)重ねることです。
方法は大きく分けて、「2回録音して音を重ねる」方法と、「エフェクトでダブリング効果を得る」方法の2種類があります。
ダブリングすることで、音に厚みや揺らぎなどを生み出すことが出来ます。
1.2回録音して重ねるダブリング
同じボーカルパートを2回録音して、それを重ねます。
1テイク目をコピペするのではなく、2テイク目も現実に録音して重ねるというのがポイントです。
ボーカルは実際に人間がリアルタイムで「歌う」ものなので、同じパートでも、微妙な音程のずれ、発生タイミングのずれが生じます。
このずれが、ボーカルパートに厚みを生み出してくれるのです。
さりげないダブリングにしたい場合には、サブ(2テイク目)の音量を弱めにして、薄っすら重ねてみると効果的です。
聴く立場からは1つのボーカルテイクに聴こえますが、ダブリングしないデータよりも音の厚みを自然に感じることが出来ます。
逆に、明らかにダブリングしていると分かるようにしたい場合には、メインのテイクとサブのテイクを30ms程度離してみましょう。
こうすることで明らかに2つのボーカルテイクが鳴っているように聴こえます。エフェクトを使わないでディレイ・コーラスを作り出しています。
ですが、やり過ぎるとボーカルにまとまりが無くなってしまうので、あくまで「1人のボーカルの声」ということを念頭において、サブテイクの調整を行ってください。
2.エフェクトによるダブリング
(1)コーラスを使ったダブリング
コーラスのエフェクトを使うことで音程をずらし、音に微妙なうねりを生み出し、ダブリングのような効果を出すことができます。
元の音のデータをコピーし、コピーしたデータにコーラスをかけて、元の音のデータと混ぜてみましょう。
すると、擬似ダブリングの効果を得ることが出来ます。
(2)ディレイを使ったダブリング
コーラスだけでなく、ディレイを使ったダブリング方法もあります。
先に説明した2つのデータのタイムをずらす方法を、ディレイを使って行います。
ステレオタイプのディレイを使用します。
元の音のデータを左右パンどちらかに振り、ディレイ音を20~30ms程度遅れて設定し、逆のパンに振ります。
音が左右一体化して鳴っているように聴こえ、微妙なずれが音の厚みを出しています。
これは割とポピュラーな方法です。
(3)ダブリング専用エフェクトを使ったダブリング
メーカーによっては、ダブリング専用のエフェクトが販売されていたり、DAWのプラグインが用意されています。
例としてWave社の「Doubler」が有名なプラグインです。
このエフェクトは、音にダブリング効果を与える機能があります。
音に厚みが加わり、左右に広がるようなミキシングを行うことが出来ます。原理的には(1)と(2)と同じです。EQ調整やモジュレーション効果を微調整出来るのが、専用エフェクトならではです。
3.最後に・・・
ダブリングを行う目的は、大きく以下の3つがあります。
- 音に厚みを加える。
- 音を左右に広げてステレオ感を出す。
- オケとボーカルを馴染ませる。
やり過ぎるとボーカルにまとまりが無くなって、逆に浮いてしまいますが、上手く使うと明らかに良い効果が出ます。また、ここで紹介した方法それぞれでも微妙に違って聴こえて面白いです。ミキシングの際は是非活用してみて下さいね。
ボーカルのコンプレッサーのおすすめのかけ方や設定について。
コンプレッサーとは、音を圧縮することで音圧を出したり、アタックを調整したりするエフェクトです。
エフェクトの中でも、コンプレッサーは音作りに非常に重要な役割を果たします。
迫力のある音やCDで聴くような臨場感ある音を生み出すためには必要不可欠なエフェクトですが、使い方を間違えると音が平坦になったり、音質が崩れて、せっかくの音色が台無しになってしまいます。
ここでは、ボーカルに活用する視点で、コンプレッサーの設定を紹介していきます。
1.コンプレッサーの設定の意味を知ろう
コンプレッサーには、「Threshold(スレッショルド)」「Ratio(レシオ)」「Attack(アタック)」「Release(リリース)」の、主に4つの設定をいじって音作りをしていきます。
それぞれの設定の意味を見てみましょう。
(1)Threshold(スレッショルド)
日本語で「閾値」、コンプレッサーが機能を始めるレベル(音量)を決めます。
スレッショルドを設定したレベルをオーバーすると、初めてコンプが作動します。スレッショルド以下のレベルではコンプはかかりません。
ですので、ゲイン・リダクションのメーターが作動してる下の辺りまでスレッショルドを下げるのが基本です。これはデータ全体のレベルを確認して決めていきます。
下に下げれば下げるほど、小さな音量レベルまでコンプがかかります。
下げ過ぎると、音のダイナミクスが無くなってしまうので注意しましょう。
(2)Ratio(レシオ)
どれだけの比率で音を圧縮するかを決定します。
レシオを深く設定するほど、サウンドにパンチが出て圧力が増しますが、深くかけ過ぎると音が歪んでしまうので、自然なサウンドを目指すならレシオは低~中の比率に設定します。
「1:1」設定ではコンプレッサーはかかりません。最大音量と同じという意味だからです。
低~中比率にしたい場合は、「2:1」あたりで設定しておきます。
(3)Attack(アタック)
コンプレッサーが作動し始める、そのタイミング(時間・ms)を設定します。
数値が大きくなればなるほど、アタックは遅くなり、コンプがかかる箇所が遅れます。
アタックが「遅い」設定とは、20~100msになります。適度に遅くすると効果的ですが、タイムを間違えると急激な音量差が出てしまいます。
中間程度のアタックは8~20msです。この辺りの設定が一番使い勝手が良いと思います。
8ms以下の「早い」設定は、音全体にコンプがかかりますので、よりタイトで均一な音になります。
サウンドの表面を滑らかにしてくれます。歌の抑揚を求めないパートで効果的でしょう。
(4)Release(リリース)
コンプレッサーが作動してから、そのサウンドの圧縮を止めるまでのタイミングを設定します。
アタックとは逆に、数値が大きくなればなるほど、リリースは遅くなり、コンプが切れるのが遅くなります。
速い設定はだいたい100ms以下です。
ザラついた印象を与えるサウンドになります。ボーカルのタイプによっては効果的です。
中間程度の設定が100~400msです。
400msよりも遅くリリース・タイムを設定すると、よりスムースな音になりますが、かけ過ぎると音のインパクト成分を奪ってしまいます。
グルーヴも潰れてしまい、いわゆる「ノリ」が失われてしまうので、かけ過ぎは要注意です。
2.ボーカルのコンプレッサーのかけ方
ボーカルにコンプレッサーをかけるには、本当に色々なやり方があります。ボーカルはおそらく、各パートの中でも、最もレベルの差が激しく、声のクセは個人で異なるからです。
今回は周りの音に埋もれないハッキリとしたボーカルになる設定をしてみます。
アタック・タイムを3msぐらい、リリース・タイムは10~50msぐらい、そしてレシオを3:1ぐらいに設定します。
ゲイン・リダクションは、最大で-6dBぐらいになるように、スレッショルドで調整をしてください。
アタック・タイムとリリース・タイムは、曲の流れに合わせてリアルタイムに少しずつ調整する必要がありますが、ここは慣れと経験が必要です。
そして、ここでちょっとしたテクニックを一つ紹介します。
EQで微調整をかけた後、もう1回コンプレッサーをかけます。
1回で完結させようとすると不自然に音量が下がったりするので、2回に分けて少しずつコンプレッサーをかけていきます。その都度サウンドをしっかり確認してください。
注意する点は、どちらも軽めの設定にすることです。
二重にかけるため、深くかけるとすぐに音が歪んでしまいます。
EQとコンプレッサーが一体化したマルチ・バンド・コンプレッサーというミックス用のエフェクトもありますので、こちらも活用してみましょう。
3.最後に
今回は一般的な設定のみで、細かいことは省きました。エフェクトをかける場合の基本は、「自分の耳で聴いて調整していく」ことです。これが大事です。
完成後の音をしっかりイメージして、自分の耳で聴き、丁寧に仕上げていけば、その分だけ良い音を作ることが出来ます。
初めのうちはなかなか上手くいかず、イメージと違って悩むこともありますが、経験を重ねるたびにどんどん上達していくと思いますので、サウンドメイクの練習もしてみて下さいね。
ボーカルエフェクターのリバーブとハモリのおすすめ。
ボーカルに活用できるエフェクターは、様々な種類のものがあります。特にDAWが一般化した現在では、色んなエフェクトを手軽に使うことが可能になりました。
その中でも、今回はボーカルの雰囲気を作るには必要不可欠な、「リバーブ」と「ハモリ」効果を作るエフェクトを紹介します。
ボーカルのミックスにおいては、リバーブが非常に重要な役割を果たします。リバーブが使われていないボーカル・トラックを探す方が珍しいくらいです。
かけ過ぎてもお風呂の中にいるみたいになり、かと言って全くかけないと物足りない雰囲気に…、という悩みも多いのではないでしょうか。
また、それと同時に重要なのは、「ハモリ」の存在です。
「ハモリ」とは「ハーモナイズ」、メインの音程に対して異なる音程を重ねて、「調和」を求めることです。
音の厚みを出すためには、音作りだけでなく、その前のハモリの存在も大切です。
ここでは、そんなボーカルの音作りの中でも、「リバーブ」と「ハモリ」の音作りのポイントを紹介していきます。
リバーブのポイントは「音の芯を保つこと」
特に初心者の方に注意していただきたいポイントは、リバーブをあまり深くかけることは禁物です。
リバーブはカラオケで使う「エコー」に近いので、それだけで上手く聴こえる感覚になります。あまり深くかけ過ぎると、お風呂のようになってしまい、ドライ音(エフェクトをかけていない状態の原音)が埋もれて聴こえづらくなってしまいます。
また、最終的なミックス時にコンプレッサーなどで全体の音圧を上げると、リバーブがコンプレッサーにもかかり、想像以上に残響感が増す傾向があります。
リバーブはほどほどに、ということをまずは念頭に入れておきましょう。
(1)馴染ませるには「ルーム・リバーブ」!
音が浮いた感じをなくすためには、まずは残響音が短い「ルーム・リバーブ」を使用してみましょう。
これだけでも、自然な空気感になり、ボーカルとその他の楽器が馴染みやすくなります。
(2)アナログな雰囲気を出すには「プレート・リバーブ」!
プレート・リバーブとは、鉄板が音で振動する時の残響音を再現したリバーブです。
スプリング・リバーブと並んで、音色を作る意味でも良く使われます。
あまりウェット(エフェクト音)を上げなくても、しっかりリバーブを感じることが出来ます。
生音感を出すのにピッタリのリバーブです。
(3)もっと雰囲気を出したい時は「ディレイ」も一緒に使おう!
リバーブに似ている、空間系エフェクトに分類されるエフェクト「ディレイ」。
やまびこと考えると分かりやすいと思います。
生の空気感や、レトロな響きが欲しいな、と感じる場合には、リバーブと一緒にディレイも足してみましょう。
薄くディレイをかけるだけでも、かなりイメージが変わります。
また、ディレイ音にもリバーブをかける、かけないでも、雰囲気は違ってきます。
ハモリは「ポイント」ごとに入れよう!
大抵のボーカル用エフェクターには、ハモリを生成する「ハーモニー機能」(あるいは「ダブラー機能)が内蔵されています。
これは、エフェクトを使用することで、リアルタイムの原音に対して3度下、3度上、5度上、5度下などのハモリを自動的に生成してくれる機能です。
つまり、原音に対してコーラスのエフェクトをかけるのに近いイメージです。
メジャー・コード、マイナー・コードなどに合わせて、スケールも自動的に修正してくれるため、非常に便利な機能です。(その分、しっかりピッチを合わせて録音しなければなりませんが)
最近のボーカル用エフェクターは、機械的な雰囲気もなく、かなり高クオリティなものばかりですので、是非使ってみてください。
ですが、あまりハーモニー機能を多用するとしつこくなってしまいます。かけ過ぎに注意して、何度も試してみる必要があります。
ですので、ハモリはサビなどの盛り上がりの部分での使用など、ポイントに合わせて使用するようにしましょう。全体を通してさりげなく厚みを感じられるようにするのが上手な使い方です。
まとめ
リバーブやハモリのエフェクトは、ボーカルの雰囲気作りに非常に重要な役割を果たしてくれます。
ですがやり過ぎは禁物な部分でもあるので、自分の持っているボーカル用エフェクターをよく研究してください。そして、どんな楽曲の中でどんなボーカルを作りたいのか、明確なイメージを持つことが大事です。
これらのエフェクターを使うと、手軽に雰囲気を作ることが出来るので、テクニックやセンスも問われるエフェクトです。
ボーカルは「人間が直接発する楽器」なので、最も加工が難しいと言われています。
そのボーカルを活かせる、その楽曲のイメージに合う音作りを研究してみて下さいね。