ギターを弾く上で、どうしても避けて通れないのが、コード理論に対する理解です。
おそらく、ギタリストで「コードってなに?」という方はいないでしょう。
コード理論が全然分からない、もしくは理論なんて使わないで感覚でギターを弾く、という方でも、それは何かしらのコード進行理論に沿っているものなのです。
コード理論で、楽曲を作る上で重要なのが、コード進行です。
最も基本的なコード進行は、「スリー・コード」と呼ばれるシンプルな進行になります。
その名の通り3つのコードのみで楽曲が構成されており、それぞれトニック、サブ・ドミナント、ドミナントと言い、様々なジャンルで活用されています。
これだけでも十分楽曲として成立させることが出来るのですが、このスリー・コードにそれ以外のコードを加えることで、より楽曲が洗練され、カラフルな印象を持たせられるようになります。
よく使われる代表的なものは、トゥー・ファイヴ進行、代理コードがあります。
これらのコード進行理論は、シンプルでストレートなロックよりも、むしろジャズから学ベることが多いです。
ジャズでは、1940年代~50年代にかけて、様々なコード進行理論が研究されました。
ギターを弾く上で、もしくは作曲を行う上で、さらに発展・洗練させていくために、今回は一歩踏み込んだおしゃれなコード進行のパターンを考えてみましょう。
ギターのコード進行でおしゃれなパターンとは?
コード進行をおしゃれに聴かせるには、スリー・コードに新たなコードを入れたり、スリー・コードのうち、別のコードを差し替えたりすることで可能になります。
逆に、スリー・コードには、単純明快で荒削りな魅力があります。
実は、このようなコード理論は体系化されており、様々なコード進行のパターンがあり、その進行に対するコードの役割などは決まっています。
初心者の方は、「理論」というワードだけで拒否反応を示してしまうかもしれません。
ですが、難しく考えなくても、普段から馴染んでいるようなスリー・コードに、少しの工夫を加えるだけでも、十分洗練された響きを得ることが出来るようになります。
・コードの選択方法
コード理論を学んだからと言って、すぐにおしゃれな演奏が可能になるわけではありません。
理論的に正しい進行であっても、実際にギターで弾いてみると、非常に弾きづらいヴォイシングでは実践的ではありません。
さらに、ベースやボーカルと合わなかったり、アンサンブルとの関係も大事になってきます。
また、見落としがちなのが、リズムを考えたコードを選択することです。
8ビートなのか16ビートなのか、どんなリズム・パターンの上でコードを弾くのか、どんなコードがそのリズムにマッチするのか、などが重要になります。
まずはコード進行の基本的事項をしっかり押さえて、シンプルなパターンを覚えたら、それを少しずつ発展させていき、アンサンブルやリズムを考慮していくのが最も効果的でしょう。
どのような場面で、そのようなコードを選択するのか、つまり学んだ理論をどう使うのかは、はっきり言ってセンスでしょう。
ですが、そのセンスは、天才のように生まれながらのものではなく、経験によって鍛えていくことが出来ます。
色々な音楽を聴いたり学んだり、そして実際に演奏経験を重ねていくことで、自分のセンスを磨いていくことが大事です。
・ギターならではのコード
コードとは、ギターに限ったことではなく、当然ピアノなど他の楽器でも(複音を出すことが出来る楽器であれば)演奏可能です。
ここで、ギター特有のコードの使い方を紹介します。
同じコードであっても、ギターでは様々なヴォイシングが可能なのです。
普段弾いているコード進行の中で、同じコードでも異なるヴォイシングを使ってみることで、いつもとは違った変化をつけることが出来ます。
また、使っているエフェクターを変更してみると、同じヴォイシングのコードでも、違った響きに聴こえたりするのでオススメです。
例えば、クリーン・トーンのアルペジオで弾いているコードに、ディレイとリヴァーブを加えることで、奥行きを感じることが出来るようになるでしょう。
上記のようにコードの響きを変更することは、メロディやベースラインにも影響を与えることになり、楽曲の表現をより豊かなものにしてくれます。
基本コード
以下では、どのようなコードがあるか、具体的なコード進行の用法を紹介していきます。
現在よく聴かれるロックやポップスなどでは、定番中の定番と言えるものばかりですので、実際にギターを弾きながら覚えていきましょう。
・M7thを入れる
普段よく使っているコードを、最も手軽に「おしゃれ」にするには、コードにM7thを加えることです。
通常のコードは、3和音といって3つの音を重ねて構成されています。例えば、CであればC -E-G(ド-ミ-ソ)、と言った具合です。
これに、Cから見て7番目の音であるB音を加えて、4和音にします。
3和音では、コードを構成する最低限の音のみで構成されているため、メジャー/マイナー感がストレートに表現されてしまいます。
そこに7th音を入れることで、メジャー/マイナー感を薄めつつ、さらに洗練された響きを出すことが可能になります。
これは、コードを構成している音の数が増えることで、コード構成音同士が近づく、もしくは実質同じコードになるため、一連のコード進行で聴いてみると、その役割を実感できると思います。
楽曲の雰囲気を考えながら、7thを入れるかどうかの判断をしていきましょう。
・9thを入れる
9thとは、テンション・ノートと言われる音で、他にも11th、13thもテンション・ノートと呼ばれます。
テンション・ノートはジャズでよく使われており、不安定というより独特の緊張感が加わり、コードの解釈を曖昧にします。
ここでは頻出かつ基本的なテンション・ノートである9thを例に解説していきましょう。
通常のコード構成音よりも明らかに高い音が加わることで、複雑で美しい響きが得られます。
さらに空間系エフェクトと合わせると効果は非常に高いでしょう。
9thは、メジャー・コードでもマイナー・コードでも、どちらでも良くマッチします。
注意していただきたいのは、2ndではなく9th、という点です。
音としては同じなのですが(Cから見るとD)、1オクターブ高いため9thと呼ばれています。
仮に2ndのまま使ってしまうと、メジャー/マイナーを決定する要素である3rdと隣り合っているため、同時に鳴らすと音がぶつかってしまい、美しく響きません。
さらに、ギターという楽器の構造上、2ndと3rdを同時に弾くのは、運指的にかなり困難だと思います。
そこで、3rdを省略したコード・ヴォイシングで9thを入れるのが、比較的簡単な活用方法です。
このコードは「3rdの省略系」という意味で、add 9thと言われています。
・ドミナント7thを使う
ドミナント7thコードとは、例えばC7などのコードのことを言います。
これは、ダイアトニック・コード進行という定型的なコード進行の中でよく使われています。
作り方は簡単で、トニック・コードから数えて5番目のコード(CであればG)に、♭7thを加えることで作れます。
非常に不安定な響きのコードで、トニック・コードに戻る直前に配置され、ドミナント・モーションという終止感を形成します。
つまり楽曲の終わりでよく使われることになりますね。
もちろん、楽曲の途中でも使うことは出来ます。
そうすると、ドミナント7thの本来の役割である「トニック・コードへの解決」というよりも、ブルース進行に聴こえるでしょう。
応用編として、ドミナント7thでなくdim(ディミニッシュ・コード)を使うことで、より不安定で不気味な響きになります。
ただし、理論的には、ディミニッシュ・コードではドミナント・モーションを起こせないので、注意してください。
発展のさせ方
ここからは、Key of Cを例として具体的に紹介していきます。
・セカンダリー・ドミナント・コードを使う方法
C-F
この進行では、KeyはCですが、Fを仮のトニック・コードと捉えて、Fのドミナント7thコードであるC7を途中に挿入し、Fへのドミナント・モーションを作ります。
C-C7-F
というコード進行になります。
このC7は、5番目のコード以外に♭7thを使っているため、ダイアトニック外のコードとなるので、ノン・ダイアトニック・コードと言います。
ノン・ダイアトニック・コードのうち、ドミナント7thコードを、セカンダリー・ドミナント・コードと言います。
ここまで説明したように、セカンダリー・ドミナント・コードは、Ⅴ7以外のドミナント7thコードのことで、部分的な転調をスムーズに行う場合、よく使われています。
・トゥー・ファイヴを使う方法
トゥー・ファイヴとは、ジャズから誕生した、定型的なコード進行の1つです。
先ほどのドミナント7thコードからトニック・コードへの進行の前に、Ⅱm7を置いて、Ⅱm7-Ⅴ7-Ⅰとします。
以下、上記の進行の続きとして解説します。
ドミナント7thコードの前にⅡm7を配置すると、
Gm7-C7-F
となります。これはセカンダリー・ドミナントと、トゥー・ファイヴを合わせて使用している、高度なコード進行と言えます。
Fmaj7-E7-Am7-Gm7-C7
・サブ・ドミナント・マイナー・コードを使う
続いて、ジャズというよりも現代的なロックでよく使われるのが、このコードになります。
これは4番目のコードであるサブ・ドミナント・コードを使う箇所で、代わりにそのマイナー・コードであるⅣmを持ってくるという用法です。
先程と同様、ノン・ダイアトニック・コードということになります。
C-F-C-F
という進行で、Fを全てFmに変更して弾いてみてください。
少し曇ったような、切ない雰囲気を感じられると思います。
F-G
という一般的なダイアトニック進行で、
F-Fm-G
とすることで、F-Fmへの進行は、Keyの雰囲気を保ったままメジャーからマイナーへと楽曲を進行させていきます。
・オン・コードを使う
コードには様々な種類がありますが、「D(onC)」「D/C」というコードを見かけたことはありますか?
これらのコードは、どちらもオン・コードと言います。
簡単に説明すると、コードはDを弾いて構わないのですが、ルート音はCを鳴らす、という意味になります。
F-G-Em-Am
という代表的なコード進行では、GのコードをG/F(G(onF))に置き換えてみましょう。
最も低音をFとして、Gのコード構成音をヴォイシングします。
最も低い音がGのままでFを加えると、G7となり、コードの解釈が異なるわけです。
運指的に厳しい場合もありますので、ギター1本で弾くというよりも、ベースが最低音を弾き、コード構成音をギターやキーボードが弾くというように、アンサンブルを考慮してよく使われます。
オン・コードは、ルート音を滑らかに進行させるために使われるケースが多いです。
・ベースを半音ずつ上昇させる
ベース音を半音ずつ上げていく進行は、徐々に高揚感をあおっていく効果を演出する事が出来ます。
F-D-F#-G-E-G#-Am
このようなコード進行では、先程紹介したようなオン・コードを使いながらベース音を1音ずつ上昇させるとスムーズに行くでしょう。
これは、クリシェ進行と似ていますが、クリシェとの違いは、コード構成音ではなくルートである点です。
もちろん、下降時でも考え方は同じですので、様々な進行で活用できるアンサンブル・アレンジです。
・テンション・コードを使う
テンション・コードとは、1オクターブ以上のノン・コード・トーンを付加したコードの事です。
すでに上記の9thで詳細を説明していますので、ここでは省略します。
ジャズでは頻出のコードですが、近年ではポストロックなど、インディー系のサウンドで良く耳にしますね。
ジャズのように理論的に使わなくても、ポストロックなどでは「響き重視」で使われていますので、参考になると思います。
テンション・ノートとは、9th、11th、13thで、これに#や♭を付加して使うケースもあります。
これらをオルタード・テンションと言いますが、使い過ぎてしまうと、調性が曖昧になったり、Keyから外れた音に聴こえてしまいますので、使う場合は注意が必要です。
・ディミニッシュを使う
ディミニッシュ・コードを使うことでも、ジャジーな雰囲気を演出することが出来ます。
おしゃれ、というよりも不安定でダークな響きですが、他のジャズ・コードと合わせて使用したり、ピンポイントで使うことで効果が得られるでしょう。
かなり個性的なコードなので、使いどころは難しいと思いますが、ディミニッシュを使いこなせるギタリストは中々少ないので、習得する価値は十分にあります。
最後に
ここまで理論的な話が多くなってしまいましたが、一通りの例を紹介してきました。
一口におしゃれなコード、と言っても、色々な種類があることがご理解いただけたかと思います。
そして、普段使い慣れていないコードを使うのは、とても勇気がいることです。
これらを難なく自然に使えるようになるには、色々なコードを弾いてみて響きを確認したり、さらに理論的な勉強も必要になるでしょう。
コードの理想は、鳴らした時の美しい響きです。そしてメロディやリズムなどのバックも重要です。
確かに理論的な勉強も大事ですが、それ以上に様々な音楽に触れることが大事です。
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